第一章 家出少年と配達人

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 先週の花火大会だって、結人だけ誘われなかった。クラスの女子グループも誘って行ったらしいのに。  誘いのメールはこないのに、なぜか報告のメールはしっかりと送られてくる。仲間の一人であるシンジはご丁寧に写真まで添付して「ミキの浴衣姿、色っぽかったぜ」などと報告してくれた。  クラスの女子の中で誰が一番好みかと訊かれ、結人がミキと答えた時には「えー、ミキ? お前あんなのがタイプなの? タレ目だし、足も太いじゃん」などと言っていたくせに。 「お前が友達とあまりうまくいっていないことはわかってる」  結人に言い聞かせるような、落ち着いた口調でもって父は言った。 「だけどそれは、本当にスマホなんていう小さな機械ひとつが原因なのか? その友達というのは本当に、お前がLINEができないとか、夜間に携帯電話を使えないという理由でお前を遊びに誘わないのか? 父さんは違うような気がする。もし仮にそうだとしたら、そんなものがなければ成立しない友人関係なんてろくなものじゃないと思うぞ」  正論が結人の胸に突き刺さる。父は何も知らない。知らないからそんなふうに、持論を正論にくるんでいかにも自分は正しいという顔で投げてくることができるのだ。  父から視線を外すと、片側が潰れたロールケーキを悲しげな顔で見つめる母の姿が目に入った。  父も母も、まだ喪服のままだった。  喪服と、潰れたロールケーキと、最新モデルの電子辞書。そして静かなダイニングで一人、怒りを発散させている自分。  何でこんなことになってるんだろう。情けなさとむなしさが込み上げてくる。
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