13人が本棚に入れています
本棚に追加
この状況から抜け出すには、「ごめんなさい」と頭を下げるべきだということはわかっていた。でも、それはどうしてもできなかった。
だから結人は背を向けることにした。すべてをその場に置き去りにして、二階の自室に戻ろうとした。
「結人」
そんな結人の背に、父の声がかけられる。
「お前に必要なのはスマホなんかよりも、もっと相手を信頼して心を開くことだと思う」
結人は足を止めたことを後悔した。父の呼びかけなんて無視して、さっさと部屋に戻るべきだったのに。
懸命に鎮めようとした心を、なぜ余計にかき乱すのか。一番触れられたくない傷口に指を突っ込むような真似をするのか。
「ふざけんなよ!」
結人の心が爆発を起こした。
「俺が悪いのか? 約束を破ったのは父さんのほうだろ。何も知らないくせに。理解しようともしないくせに。わかったように人を分析すんなよ!」
「理解しようとしてるさ」
父は疲れたようにため息をつき、そして言った。
「お前は、俺たちの子どもなんだから」
その瞬間。結人の背筋をぞくぞくっとする感触が一直線に走り抜けた。
父は「なあ」と母に同意を求め、唐突に振られた母は戸惑いながら「ええ」と答える。
結人の背筋のぞくぞくは止まらない。腕には鳥肌が立っていた。
その場にいることに耐えられず、混乱する頭を抱えて、結人は逃げるようにして自室に駆け戻った。
ベッドに倒れ込み、結人は階下でのやりとりを何度も反芻した。
そのまま夕食も食べずにいたが、十一時を過ぎた頃になるとぐうと腹が情けない音を立て、仕方なく台所へ下りていく。
最初のコメントを投稿しよう!