第一章 家出少年と配達人

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 この状況から抜け出すには、「ごめんなさい」と頭を下げるべきだということはわかっていた。でも、それはどうしてもできなかった。  だから結人は背を向けることにした。すべてをその場に置き去りにして、二階の自室に戻ろうとした。 「結人」  そんな結人の背に、父の声がかけられる。 「お前に必要なのはスマホなんかよりも、もっと相手を信頼して心を開くことだと思う」  結人は足を止めたことを後悔した。父の呼びかけなんて無視して、さっさと部屋に戻るべきだったのに。  懸命に(しず)めようとした心を、なぜ余計にかき乱すのか。一番触れられたくない傷口に指を突っ込むような真似をするのか。 「ふざけんなよ!」  結人の心が爆発を起こした。 「俺が悪いのか? 約束を破ったのは父さんのほうだろ。何も知らないくせに。理解しようともしないくせに。わかったように人を分析すんなよ!」 「理解しようとしてるさ」  父は疲れたようにため息をつき、そして言った。 「お前は、俺たちの子どもなんだから」  その瞬間。結人の背筋をぞくぞくっとする感触が一直線に走り抜けた。  父は「なあ」と母に同意を求め、唐突に振られた母は戸惑いながら「ええ」と答える。  結人の背筋のぞくぞくは止まらない。腕には鳥肌が立っていた。  その場にいることに耐えられず、混乱する頭を抱えて、結人は逃げるようにして自室に駆け戻った。  ベッドに倒れ込み、結人は階下でのやりとりを何度も反芻(はんすう)した。  そのまま夕食も食べずにいたが、十一時を過ぎた頃になるとぐうと腹が情けない音を立て、仕方なく台所へ下りていく。
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