第一章 家出少年と配達人

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 普段父に預けている携帯電話は、この夜は結人の手にあった。しかし何度チェックしても、待ち受け画面は着信もメールの受信も伝えてこない。  誕生日にスマホを買ってもらう約束をしたということを、結人はシンジを始めとした友人たちに話していたのだが「買ってもらえたか?」と訊いてくるやつは一人もいないようだった。  これが真実。父の言うことは正しい。  仮に父がちゃんと約束を守ってくれたところで、結人の現状が変わったかは怪しいものだ。そもそも結人は誰からも「早くスマホを買ってもらえよ」などとせっつかれたことはなかったのだし。 「お前に必要なのはスマホなんかよりも、もっと相手を信頼して心を開くことだと思う」という父の言葉は図星だった。  人を信頼なんてできない。そして、信頼できないものに心を開くことなんてできない。  だから相手も結人を信頼しないし、心を開いてくることもない。当然の理屈だ。ガラケーだスマホだなんていうのは結局のところ、結人を遠ざけるための都合のいい言い訳でしかない。  そんなものにこだわって自身の誕生日をめちゃくちゃにしたあげく、とんでもない事実を掘り起こしてしまったのだから、まったく自分は救いようのない馬鹿だった。  本当に嫌になる。自分自身が。自分を取り巻くすべてが。  新学期の始まりの朝。自宅を出て学校へ向かっていた結人は、気がつくと途中の駅で電車を降りていた。  そのままふらふらと歩いて公園にたどり着くと、人けのない一角のベンチに寝転がり、その日は結局、学校へは行かずにそこで過ごした。  翌日も、更にその翌日も、結人は同じことをした。
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