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 雷雨が去った夜空には、半月が笑っている。アルフレッドを伴って『銀鳥隊』が待機する砦に着いたエステルは、やけに所作が優雅なカレドニア兵の案内で、砦の一室に通された。解放軍の大将が来るという事で、即興で簡単に埃を取り払ったのだろう部屋は、まだ少し喉がいがらっぽくなるが、文句を言えた身分ではない。  部屋を用意してもらっただけでも充分なのに、しとどに濡れた身体を拭く為のタオルが数枚と、着替えの服が与えられた。 「私は部屋の外に待機しております」  幼い頃は一緒に風呂に入ったりもした叔父だが、流石にこの歳になっては、分別をつけなくてはならない。アルフレッドが一礼して部屋を出てゆき、扉が閉められると、エステルはタオルで髪から身体までを充分に拭き、着替えとして用意されたカレドニア女性兵の制服に袖を通す。濃紺の制服は、事前にエステルの体格を把握していたのかとばかりに、ぴったりと身に沿った。  それまで身につけていた戦装束は、後で乾かす為にまとめて畳み、テーブルの上に置く。その脇にひっそりと置かれていた茶器に目をやり、大声を出して喉が渇いていた事を思い出した。  ソファに腰掛け、ポットからカップへ茶を自分で注ぐ。紅茶ではないのだろうか、随分と泥臭い野菜のようなにおいが鼻腔に滑り込む。口に含めば、やはり根菜に似た味が舌に触れた。 「……エステル様」  少し呆れたようなアルフレッドの声が耳に届いたので、顔を上げる。時間を見計らって部屋に入ってきたのだろう叔父は、声音通り眉間に皺を寄せて、深い溜息をついた。 「仮にもここは敵地です。出されたものを素直に口になさらないでください。毒が仕込まれている可能性があります」  きょとんと目を瞬かせてしまう。まさかそんな事があるなどとは、全く考えていなかった。いくら何でも彼は猜疑心が強すぎるのではないだろうか。口を開きかけると。 「成程。お姫様はそうして聖剣士様が守っていらしたのですね」  くすくすと笑う声が聞こえ、先程エステルをこの部屋に案内してくれたカレドニア兵が再び顔を見せた。どう見ても男なのに、女性のようにしなを作って、自分よりしとやかなのではないかという所作をする。
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