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「坊ちゃまがお嬢様を大事にされるように、お姫様にはつよーい騎士がついていらして」 「私は騎士ではない。傭兵の道しか選べなかった」  アルフレッドが少し気分を害した様子で訂正しても、カレドニア兵は「ええ、ええ。存じておりましてよ」と、唇の両端を持ち上げ、ゆるりとうなずくばかり。 「腹違いの弟君を唯一の家族として愛された、ランドール将軍のお話は、我が主からよくお聞きしましたから」  そう言いながら、彼はテーブルの横に歩み寄ってきてポットを手に取り、「やっぱり、ぬるくなってますわね」と撫で回す。 「こんなお茶しか出せなくてごめんなさいね、エステル王女。だけど、この根菜茶が、カレドニアでは一般的に飲まれていて、戦場にも持ってゆける限界なの」  それを聞いて、エステルは気恥ずかしさに頬を染める。たしかに、正直に言ってしまえば美味くはない茶だと思った。だが、カレドニアが貧しい土壌である事は聞いている。紅茶などの嗜好品は容易には入手できず、この山地でも逞しく育つ作物を原料にするしか無かったのだ。今まで自分がどれだけ恵まれた生活をしてきたかを思い知り、ただただ恥じ入るしか無い。  だが、カレドニア兵はエステルの無知を責めるでもなく、「そうだわ」とポットをテーブルに置き直し、両手を打ち合わせる。 「ごはんも大した物はお出しできないけれど、姉弟(きょうだい)水入らずでお召し上がりになる? ご用意いたしましてよ」  ここは彼の厚意に甘えて良いだろうか。隣で叔父が、賛成しかねる、という表情を浮かべている。が、こちらから信用して一歩を踏み出さなくては、向こうが近寄ってくれるはずも無い。「お願いします」と、軽く頭を下げた。  兵の案内について、砦の屋上へ。そこには、銀の羽根を月明かりにしらじらと照らされる幻鳥(ガルーダ)と、櫛でその毛並みを梳く少年の姿があった。訪問者の気配に気づいて、手を止めこちらを振り向く顔は、やはり自分とよく似ている。 「坊ちゃま、お姉様が貴方とお食事をご一緒したいと」 「ジャスター、だから『坊ちゃま』は……」  正式な部下だと思っていたのだが、その呼び方に、エステルもアルフレッドも目を丸くしたのを見取ったのだろう。アルフォンスが肩を落として首を横に振るが、ジャスターと呼ばれたカレドニア兵は全くこたえた様子を見せない。 「聖剣士様はいかがなさいます? こちらで?」 「ああ。お二人が見える場所にいさせてもらう」  邪魔はしないが、万一の時には剣を抜いて飛び出せる距離を保つという事だろう。ジャスターは「賢明なご判断」と口元に手を当てくすくす笑うと、食事を用意する為だろう、階下へ姿を消した。
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