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 アルフレッドが目礼して、離れた場所に腰を下ろす。エステルはゆっくりとアルフォンスのもとへ近づき、隣に並んでガルーダを見上げた。 「綺麗な毛並みですね」 「大事な相棒だからね。手入れは他人任せにしたくないんだ」  櫛を梳く手を止めて、アルフォンスがこちらを向く。やはり、色は違えど、鏡を見ているような気分になる顔だ。それこそが、自分達に血の繋がりがあるという証なのだろう。そう考えていると、ふわりと柔らかい感触が頬に触れた。吃驚して顔を向ければ、ぼふんと羽毛の中に顔を突っ込む羽目になる。ガルーダが、エステルに身をすり寄せて、気持ち良さそうに目を細めていた。 「驚いた」アルフォンスが、本当に驚愕している様子で洩らす。「シーバは、知らない人間に触れられるのを嫌がるのに」  きっとわかるんだな、と彼は小さく呟く。何が「わかる」のかまでは、明言しなかったが。 「あの、訊いても良いですか」  何か話さなくては。しかし、姉弟とはいえ、初めて言葉を交わす相手に対して共通の話題がなかなか見出せず、結局は目の前の生き物に頼る事になってしまう。 「僕に答えられる事なら、何でも」  同じ思いなのだろう、アルフォンスがまだ少し緊張した面持ちでうなずくのを見届けると、エステルは、気持ちよさそうにごろごろ喉を鳴らすシーバの毛並みを撫でながら、問いかけた。 「ガルーダは、私達のお父様が乗っていた『ブリューナク』以外、もうこの大陸にはいないと言われていたそうですが、この子はどこで?」  かつて叔父から聞いた話を思い出しながら質問を投げかけると、アルフォンスは一瞬口ごもり、だが、意を決したように語り出した。 「子供の頃、いじめられて街を飛び出したファティマを探しに行ったら、一緒に森で迷ってね」  これは口を挟んではいけない話だ。そう感じ取って、無言で先を促す。 「陽は落ちて、真っ暗で、寒くて。だけど、僕が泣いたらファティマまで心細い思いをするから、必死に我慢していた。そうしたら、ファティマが」 『お兄ちゃん、こっちに温かい光があるよ』  そう告げて兄の袖を引く先についてゆくと、樹のうろに産み落とされた卵があり、唯一(かえ)った雛が、兄妹の姿を見て、すり寄ってきたのだという。 「僕らは身を寄せ合って、お互いを温めて一晩を越した。それからこいつとは、八年の付き合いさ」  エステルは、その巡り合わせの奇跡に目をみはる。だが、アルフォンスの話にひとつ引っ掛かる点を見出して、問いかけずにはいられなかった。 「ファティマさん、は」  皆まで言わずとも、流石は双子、察してくれたのだろう。アルフォンスは半月を仰いで少し長い溜息をついた後、再度口を開いた。 「ファティマには、時折未来を『視る』力がある。養母上(ははうえ)が、『ウルザンブルン』という、聖王妃セリアの故郷である里の出身で、そういう力を代々受け継いでいたらしい」
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