(4-2)

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 秋が始まり、夏の暑さはあっという間に遠ざかってゆく。カレドニア軍がガルドとの国境付近に大規模な展開を敷き始めているとの報が、ウルズに滞在するエステルのもとに入ったのは、数日間しとしと降り続いた雨がようやく止んだ日の夕刻の事だった。  復興を始めたガルドを、これ以上戦禍に巻き込む訳にはいかない。エステルは解放軍の出立準備を整えると、ティファ女王に別れの挨拶を告げた。 「私にとって、貴女はとても大切な、娘のような存在です」  その場で女王は、玉座から降りると、またも優しくエステルを抱き締めてくれた。 「今度はガルドには、遊びにきてくださいね。その時はきっと、グランディアの女王として」  身に余る激励に対する感謝と、母親の温かさとはこういうものかという感動。ふたつの情動に、エステルは目尻ににじむ水分を自覚しながらも、「ありがとうございます」と静かな声で抱擁を返した。  ウルズを出立する解放軍を、ガルドの人々は熱い歓声で見送る。その中には、この国に残る事を決めた、トルヴェールの幼馴染パロマの姿もあった。 「勝って! 必ず勝ってよ! アタシはガルドを守るから!」  彼女は街壁の見張り台に昇って身を乗り出し、恋人のウォルターを初めとする周囲の人間に、危ないからとしがみつかれても、ウルズの街がこちらから見えなくなるまで、解放軍に向かって大きく手を振り続けた。
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