(4-2)

3/5
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
 それから十数分後、砦の屋上に、ラケの乗るアルシオンに導かれて魔獣騎士が降り立った。ラドロアで敵対した時は、やけに大きく獰猛に見えたグリフォンだが、間近で見てみると、意外に小柄で、その顔つきも普通の鳥のように穏やかに見える。  その背から降りた緋色の鎧の騎士は、ラケに何事かを言われると深くうなずき、帯剣していた武器を彼女に預ける。兜を脱げば、ばさりと長い髪が広がった。  女騎士だったのか。エステルは想定外の事態に目を丸くしてしまう。隣に立つ叔父にちらと視線を向ければ、彼も同じ思いなのか、褐色の瞳を軽い驚きに見開いていた。  エステル達の驚きに気づいているのかいないのか、女騎士はすらりと背筋の伸びた綺麗な歩き方で向かってくる。そして、話し声は充分届くが、決して瞬時にこちらに危害を加える事はできない距離で立ち止まり、深々と頭を垂れた。 「エステル王女、この場を設けてくださった事、深く感謝いたします。カレドニア第一王女ジャンヌ・サリア・フォン・カレドニア擁する『緋翼隊』副隊長、アレサ・セディエルにございます」  騎士アレサの言葉に、驚きは更に募る。一体バルトレット王の娘が、この騎士にどういった用件を持ってこさせたというのか。困惑するエステルだったが、しかし。 「用向きは」  全てを察しているかのようなアルフレッドが、覚悟を決めた声色で、女騎士に問いかけた。 「アルフォンス様の事か」 「はい」  話が早くて助かる、とばかりにアレサは薄く笑む。アルフォンスといえば、ラドロアで出会った幻鳥騎士アルフォンス・リードリンガーの事だろう。だが、何故今、彼の存在が話題に出てくるのか。 「あ、あの」  とんと状況が読めないエステルの戸惑いを、感じ取ったに違いない。アレサが、本当に話を続けても良いのかとばかりに、アルフレッドの顔色をうかがってきた。 「……少しばかり」アルフレッドは、数瞬躊躇った後に、騎士に断りを入れる。「待ってもらっても、良いだろうか」 「どうぞ、エステル様がご納得されるまで」  最初は面食らっていたアレサだが、こちら側の事情を察してくれたらしい。さらりと髪を肩に流す、綺麗な会釈をする。それを見届けた叔父はエステルに向き直り、「エステル様」と口を開いた。 「時が至るまで、と思い続け、今日までお知らせせずにきた事を、どうかお許しください」  アルフレッドは胸に手を当てて頭を下げ、そして面を上げると、話の口火を切った。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!