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「貴女の母君ミスティ様と、我が兄ランドールの間には、貴女の他にもう一人、王子殿下がいらっしゃいました。それが、双子の弟君、アルフォンス様です」 「……はい?」  瞬間、叔父の言葉を咀嚼し損ねて、気の抜けた声を発してしまう。だが、段々とその意味が胸に浸透してくると、今更ながらの納得が訪れた。自分が男だったらこういう顔をしていただろうという容姿。『アルフォンス』の名を聞いて動揺を見せた叔父。自分を討つ事を躊躇った相手の、様々な感情を包括していた表情。そして、父ランドールが駆っていたのが最後とも言われた幻の鳥ガルーダ。考えてみれば、全ての点は容易く線で繋がるものだったのだ。 「何故彼がカレドニアに?」 「わかりません」  至極当然の疑問を発すると、しかしアルフレッドは眉を垂れて首を横に振った。 「十六年前、グランディア王城が陥ちたあの日、私は女王陛下に貴女を託されて落ち延びました。しかし、陛下はアルフォンス様の事には一切言及されませんでしたし、お訊きする時間も無かったので、亡くなられたものと思っておりました」 「私がジャンヌ王女よりうかがった限りでよろしければ」  アレサが控えめに挙手したので、叔父がそちらを向き、「お願いする」と首肯する。 「ミスティ女王は、当時王都アガートラムを訪れていたロベルト・リードリンガー伯に、アルフォンス様を託されていたそうです。伯爵が病で亡くなる際に、アルフォンス様には出自をお伝えしたそうですが、彼はあくまで一騎士として、自分を育ててくれた祖国に報いたいと、カレドニアを離れる事がありませんでした」 「……成程」アルフレッドが顎に手を当てて軽くうなずいた。「リードリンガー家には、グランディア王家の姫君が降嫁した事もある。縁故無き相手に託すよりは、妥当だったのか」  それから、思い至ったのか、顔を上げてアレサに問いかける。 「しかし、第一王女がそれを知っているという事は、バルトレット王は」 「勿論、陛下もご存知の事情です」 「全て承知の上で、エステル様と戦わせたのか。卑劣極まりない男だな」  アレサが痛々しげな表情を浮かべて返した答えに、アルフレッドが珍しく苛立たしげに舌打ちして、吐き捨てるように零す。それを聞いた女騎士は、少し困ったような笑みを浮かべた。 「そのお言葉に対する答えは、胸に仕舞わせていただきます。仮にも国王陛下の血を引くお方に仕える身ゆえ、主の得にならない発言は控えねばなりませんので」 「あ、ああ、すまない」  それを聞いたアルフレッドは、ばつが悪そうに咳払いをして、取り繕うように言葉を重ねる。 「貴女を困らせる気は無かった。身内の戯言(ざれごと)と聞き流して欲しい」 「いえ」  アレサはふるふると首を横に振り、「とはいえ、私も、身分を気にせず率直に申し上げれば」と、唇の端を持ち上げた。 「『我が主が女王になれば、カレドニアの面倒事は九割片付くから、一刻も早くあのクソジジイがくたばりますように』と、毎晩聖王ヨシュアに祈りを捧げておりますので」
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