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弘を連れ出した天狗は一門の元に戻ったが、長である大天狗にひどく怒られたそうだ。
そんなひどい連れ出し方をして、残された家族の気持ちを思い遣れと……。
「それを聞いた弘の坊は、川へ行く道で兄ちゃんの手をわざと離してしまったことをすごく後悔したんだそうです。きっと、兄ちゃんは弟の手を離した自分を責めているんじゃないかって……」
(あれは……)敦は思った。
(僕が手を離したのだ。弘じゃない。いや、もし弘から手を離したのだとしても、僕がすぐに手を繋ぎ直せば、弘は天狗になどならなかったかもしれない)
「弘の坊に、今度北の方へ行商で行くと話すと、この草履を預かってくれと頼んできました。もし、この草履に気を止める人がいたら、自分の母か兄かもしれない。もしそうだったら、自分のことを伝えて謝ってくれと……」
敦は、手を離したのは自分の方で、悪いのは自分なのだと骨董屋に告げた。そして、気になることを訪ねた。
「その弘の坊って天狗は元気なんでしょうか? それと、念の為確認ですが、弘の坊のここ」と敦はわざと右頬を指で差し、「ここに黒子はありますか?」と聞いた。
すると、骨董屋はにっこり笑うと、「弘の坊は元気ですよ。天狗というものは成長が速いようで、弘の坊もすっかり大人になり、今や大天狗一門の取りまとめ役として大変忙しくしています」と言った。
そして、こちらの企みに気づいたかのようににやっと笑うと、「黒子なら、右頬ではなく、左頬になら小さなものがありますよ」と答えた。
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