天狗のはなし

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 それを聞いて、やはり弘の坊という天狗は弟なんだ、骨董無形な話ではあるが信じられると敦は思った。 「それで、あの、天狗になったっていうと、弘はやっぱり鼻が長くなって、顔は赤くなってるんでしょうか?」  恐る恐る敦が聞くと、骨董屋は大笑いした。 「ああ、可笑しい。あなた、今の時代にそんな天狗はもういませんや。一門の皆さんは、普段は洋行帰りのそれはモダンな紳士達ですよ。まあ、本当の姿は私にもわかりませんがね。ところで……」  骨董屋は真面目な顔に戻った。 「お母さんはお達者で?」 「はい。母も元気に暮らしています」 「それは良かった。ここであなたに会ったこと、話したことは、弘の坊に必ず伝えましょう。さあ、これを持ってお行きなさい」  骨董屋はそう言うと、弘の草履を風呂敷に包んで渡してくれた。  敦は骨董屋に何度も礼を言うと、いつも以上の速さで山を駆け上がり、村に戻って母に今日の出来事を伝えた。  母は、「やっぱり、弘は元気に生きていたんだね」と泣いて喜んで、自分が大切に保管していた草履の片方と、敦が持って帰った片方を合わせて父の位牌の横に起き、一心に祈り続けた。
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