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次の日、敦はもう一度町に下りて、昨日の市へ向かった。市は明日まで開かれているはずだった。
母が弘のために作っていた綿入れ半纏を弘に渡してもらえないか、骨董屋に頼むためだ。それと、「いつでも帰ってこい」と伝えてもらおうと思っていた。
敦は昨日のように市の通りを一番端まで歩いた。ところが、野菜売りはいたが、その奥、一番端にあった骨董屋は姿を消していた。
「あの、隣に出ていた骨董屋さんは?」
昨日も店番をしていた野菜売りの老人に聞くと、「はて、そんな店出ていたかな。昨日もうちが一番端だったが」と言われてしまった。
しかし、家に戻れば、昨日受け取った弘の草履の片方は確かに残っていた。
不思議な話ではあった……。夢だったのか? いや、あれは現実で、弟は天狗になって今も元気にしているのだと敦は、私の祖父は死ぬまで信じていた。
了
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