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敦の家は、山奥の貧しい村にあった。
数年前に父親が流行病で亡くなり、後家の母と9歳の敦、5歳の弘の三人で暮らしていた。
父親が亡くなってからは、母が狭い畑で作物を育て、藁草履を作る内職をし、村の家々から繕い物の仕事などをもらっていたが、三人で飢えを凌ぐのがやっとの生活だった。
器量良しの母だったので再婚の口はいくらでもあったが、言い寄ってくる男達に見向きもしない。頑なに夫に操を立てて子供二人と暮らしていたものだから、弘のことも「食い扶持がひとり減ってよかったんじゃないか」とか、「いや、将来の働き手がひとり減ったのだから、もったいないことをした」などと陰口を叩く者もいた。
敦はなぜ弟の手を離してしまったのか、どうして弟を置いて先に行ってしまったのかと後悔し、罪の意識にかられていた。
まだ幼い弟だった。
ときには食事に困りひもじい思いをし、畑を掘り起こして見つけた貧弱なさつま芋を母がふかしてくれたのを、二人で分けて飢えをしのいだ。
ひとつの芋を半分にして大きい方を渡すと、「兄ちゃん、ありがと。おいしいねえ」と喜んで食べていたっけ。
空を飛ぶを鳶見つけては、「ああ、兄ちゃん、空が飛べたらいいねえ」と喜び、飽きずに空を見上げていた姿も思い起こされた。
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