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新盆
その年のお盆を迎えた。新盆の敦の家には、母が手作りした白い提灯が飾られた。
お盆はあの世との境界が曖昧になるといわれている。
敦の村には、お盆に村の境に行けばあの世との出入り口が開いて、まだ仏になって間もない魂に出会え、お盆の間だけ家に連れ帰れるという言い伝えがあった。ただし、これはその家の男が行かなければならず、女ではだめなのだという。
敦の父親の新盆のときは敦も弘もまだ小さく、あとは母しかいなかったので迎えに行けなかったと母が嘆いているのを聞いたことがあった。
敦は母に頼まれて、白い提灯に火を灯し、弟の魂に会うために村境に向かった。暗い夜道を白提灯の灯りだけを頼りに歩くのは、子供の敦には恐ろしかった。
けれども、「これで弘がいたら、本当に死んだと諦められる」と母は言っていた。母は、弘が死んだことを受け止めきれていないのだった。
だから、なんとしてでも確かめに行かなければ、その使命感が恐怖に勝り、敦は夜道を歩いていた。
途中、敦と同じように今年亡くなった家族を迎えに行った人が、白い提灯で亡くなった人の足元を照らしながら帰るのに何人も出会った。狭い村なので、顔見知りもいた。
最初に会ったのは、西山の弥助爺さんだった。爺さんは亡くなる前は寝たきりだったはずだが、娘婿に導かれてしっかりした足取りで歩いていた。白い死装束は着ているが、その様子はまるで生きているかのようだった。
村長の娘の志穂さんにも会った。白無垢の花嫁衣装を着て、父親である村長さんに手を引かれていた。志穂さんは結納も済んで隣村の村長の息子に輿入れという矢先に、急に病にかかり亡くなってしまったのだ。綿帽子で表情は見えないが、敦とすれ違った時に立ち止まって会釈をした、その口元は優しく微笑んでいた。
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