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「ひろ、ひろ……」
村境に着いた敦は、弟の名を小さく呼んだ。
しかし、弟は姿を見せなかった。
提灯の灯りを頼りに村境の向こうを眺めてみたが、漆黒の闇が広がるばかりで、あの世の扉があるのかもわからなかった。
「ひろ、ひろーー!」
次に勇気を出して大声で何度も名前を呼んでみたが、反応はなかった。
弘は死んでいないのだろうか? だったら、弘はどこへ行ってしまったのだろう。これはいいことなのか、悪いことなのか……。生きているのならいいことだ。でもそれならなぜ、あれっきり姿を現さないのだろう。
悩みながら、とぼとぼと家に帰ると、母に弘がいなかったことを伝えた。
すると母はほっとした顔をして、「それなら、弘はきっとどこかで生きているんだね」とつぶやいた。
表向き弘は死んだことになってはいたが、新盆をきっかけに敦と母だけは、弘は神隠しに遭ってきっとどこかで元気に生きていると信じるようになった。
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