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骨董屋
月日は流れ、敦は10代になり背丈も伸び、がっしりとたくましく成長した。孝行息子になって、今では畑仕事も、薪狩りや水汲みもひとりでできるようになっていた。
弟の分までしっかり働かなければならない。それが、あの時弘の手を離してしまった自分にできる唯一の償いだと信じていた。
ある日、母に頼まれ村を出た敦は、山を下りて麓の町に着物を売りに行った。敦に畑仕事を任せ時間ができた母は、古布で着物を縫っては町に定期的に立つ市に卸しているのだ。昔より、暮らしは幾分か楽になっていた。
いつも着物を買い取ってくれる古着商のおかみさんに着物を売り、わずかな賃金を貰うと、敦は市の賑わいに誘われるように通りを歩いた。
少しばかりの干し魚と、次に母が縫う着物のための古布を買って帰るのが習慣になっていた。それでほとんどの金は消えてなくなってしまうので、敦自身のものを購うつもりはなかったが、並んでいる商品を見ていくだけで楽しかった。
屋台の列の終わり、一番端っこまで行くと、いつもは見かけない骨董品の店が出ていた。
まだ準備中のようで、この辺では珍しい洋装の若い男が、大きなトランクケースからギヤマンのグラスや、精巧な彫刻が施された置き時計、鼈甲の丸ぶち眼鏡や繊細な蔦の細工が絡まる鳥籠などを大事そうに取り出しては台に並べているところだった。
「いらっしゃい。まだ全部は並んでいませんが、さあどうぞご覧あれ」
若い骨董屋が敦に陽気に声をかけた。
「いや、僕は客じゃないんで……」
「いやいや、買ってもらおうなんて思ってはいません。この市の客は食べものや着るものばかりに目が向くようで、隣の野菜売りまで来ると皆くるりと向きを変えて戻ってしまう」と、骨董屋は隣の野菜売りの老人を指差し嘆く。
「寂しい思いをしていたところだから、話し相手になってくれたらそれでいい」
そう言われて、敦は遠慮なく台のそばに歩み寄った。
「さあ、お兄さんはどれが気になるかい?」
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