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そう聞かれて敦が青いギヤマンのグラスを指差すと、「おお、お兄さんはお目が高い。これは徳川の一門のさるお方のお屋敷から出たもので、舶来品だよ」と説明が始まる。
骨董屋は敦が興味を示した品物の蘊蓄を次々と語っていった。
この町に来るときしか村を出ない敦にとって、全国を行商して回るという骨董屋の話はとても面白かった。
骨董屋はそうやって話をしながらも、次々と商品を大きなトランクケースから取り出しては並べ、台の上がいっぱいになった頃に小さな風呂敷包みを取り出した。
「さて、これで最後だ」
そう言って骨董屋が風呂敷から取り出したものを見て、思わず敦は声を上げた。
「それは……」
忘れもしない、弘が履いていた草履の片方だった。
「おや、これに興味を示したかい? だが、残念ながら、これは売り物じゃないんだ」と、骨董屋は申し訳なさそうに言う。
しかし、「これは弟が履いていた草履なんです。いったいどこでこれを……?」と敦が問うと、今度は骨董屋が敦に興味を示したようだった。
「つまり、あんたはこの草履の持ち主の兄さんってことかい?」
「はい、そうです。なんなら証拠に、これの片方を家に戻って持ってきます」
川で見つかった草履の片方は、母が大切に保管していた。
「いや、それには及ばない。その弟さんの名前を聞かせてくれないかい?」
骨董屋の問いに、敦は「弘、弘です。僕や母はひろ、ひろと呼んでいました」と答える。
すると、骨董屋はにっこり笑い、「それなら、あなたが探し人のようだ」と言った。
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