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天狗のはなし
それから、骨董屋の不思議な話が始まった。
「我々、骨董屋の商品の仕入れ先は、没落した華族の家や、御一新で落ちぶれた武家なんかのほかにもいろいろありましてね。邪の道は蛇って奴で、うちの場合、そのひとつがある大天狗の一門なんです」
「大天狗?」
敦は話の展開について行けない。
「そう、天狗ですよ。昔話なんかで聞いたことがあるでしょう?」
天狗の昔話は確かに幼い頃、寝る前に母が聴かせてくれたことはあったが、それが骨董屋や弟の弘にどうつながるのかさっぱりわからなかった。
「時代が変われば、天狗の一門だって金が入り用になる。だから、一門が集めた珍しいものを、ときどきうちに卸してもらって金と交換しているんです。私の祖父の時代からね」
なんてことのない、ただの商取引だとでもいう様子に、敦は何も言い返せない。
「なんたって、天狗は団扇で扇げば空を軽々と飛べるのはご存じでしょう。欧羅巴だって印国だって天狗様ならひとっ飛びだ。世界から逸品、珍品を持ってきては、うちに売ってくれるというわけです」
なるほど、と敦は感心した。天狗が本当に存在するとは今まで思ってもみなかったが、彼らならそんな力の使い方も可能なのかもしれないと、妙に骨董屋の話に納得した。
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