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川での出来事
敦は弟の手を離した。
遊び仲間の少年たちに呼ばれ、足の遅い弟が足手纏いになったからだ。川までは森の中の一本道だから、手を離してもついて来られるだろうとたかを括っていた。
いつもは魚の姿など見ないのに、大量の魚の群れが泳いでいると聞いて、心がはやった。魚が獲れれば、弟や母に食べさせてやることができるじゃないか。敦は川で魚を獲るのに夢中になり、気づけば弟の姿はなかった。
「ひろ、ひろーー!」と敦はいつもの呼び方で弟の名を呼んだ。
「弘、弘――!」
遊び仲間も一緒に探してくれたが、姿を見せない。
これはもしかしたら大変なことになったのかもと不安になり、仲間のひとりが大人を呼びに行き、村の男が夜通し総出で探したが、弘は見つからなかった。
明け方、小さな藁草履の片方が川に浮いているのが見つかった。
母が作った草履の鼻緒に、目印のためと痛くならないために、敦が水色の古布を巻いてやっていたから、一目で弘のものだとわかった。
川に流されたのだとわかった大人たちは、川下にある隣村まで川を辿って探してみたが弘は見つからない。一週間ほど、それでも村人が交代で捜索を続けたが、とうとう亡骸は上がらなかった。
村の寺の住職が簡単なお経を読んで、それで弔いとした。
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