女優Xを探せ!

12/22
前へ
/22ページ
次へ
 愛子からの着信履歴に気がついたのは、ブックフェアの打ち合わせを功臣と電話で終えたところだった。功臣と話している間に電話をかけて来たのだろう。最近はほとんどLINEで用を済ませているから電話なんて珍しい。  ブックフェアは今週末に迫っている。功臣とはあの日以来、普通に話せている。寧ろ砕けた雰囲気になった功臣とは話しやすく、フェアに関しても色々な提案をしてくれるので二足の草鞋を履いて多忙を極める紗綾にとって救いの神様のようだ。 「青木さん、最近雰囲気変わったね」 新作のPOPを書いている紗綾の後ろから、川島が声を掛けた。川島は紗綾の3年先輩だ。アニメオタクというのは自他共に認める有名な話で、彼の愛車は大好きなキャラたちが描かれている。その愛車で聖地巡礼をしてはホームページやSNSを使って発信しているのでファンの人たちからも一目置かれている存在であり、雑誌で熱烈なファンとして紹介されたこともある。眼鏡をかけているが見た目はかなりのイケメンなので、社内の女性たちからはがっかりイケメン等と噂されるが本人は大して気にしていない様子だ。 「そうですか?」  書いている手を止めて振り返った紗綾に、川島は納得するように頷いた。 「うん。何か可愛くなった。雰囲気が柔らかくなった感じもする。ーーーまあでも、可愛くなったって言っても、コトリンには全然かなわないけどねー。まあだからって落ち込む必要はないよ。なんたってコトリンの可愛さは宇宙一だからね」 コトリンは川島の愛するアニメ『ラブラブクイーン』の主人公だ。アイドルグループのセンターを務めている。川島がコトリンに関して話し始めると長い上にアニメを知らない人には分からない用語がぽんぽん飛び出してくる。紗綾は店内に客がいないことを確認すると再び手を動かしながら川島の熱い話を聞いていた。  川島だけでなく、最近同じように言われることが多くなった。メイクも相変わらずしていないし、髪だって今までと同じ一つ結びだ。自分では洋服の選び方だって以前と何も変わっていないつもりだ。それでも何人もの人たちから同じように言われるのだから、自分では分からないが、変化しているのだろう。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

192人が本棚に入れています
本棚に追加