女優Xを探せ!

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 仕事を終えた紗綾は、外へ出てから愛子に電話をかけた。颯斗の話が出ることも多いので、迂闊に職場では話さないように心掛けている。もちろん外で話すときも、颯斗の名前は絶対に出していなかった。  電話に出た愛子はいつもの様子とは違い元気のない声をしていて、紗綾は心配になった。どうかしたのかと訊くと、大事な話があるから会って話そうと言われ一時間後に会う約束をした。  待ち合わせたのは六本木にある愛子の行きつけの店だ。昼はカフェだが夜はダイニングバーになる。エスニック調の店構えがお気に入りらしいが何より良いのは、完全個室がある点だ。 「久しぶりね。元気そうで良かったわ。颯斗から紗綾がすっごく大変だって聞いてたから、げっそり痩せ細ってたら今日は沢山食べさせようって思って来たの。でも生き生きした顔してる。うちの優秀な弟のおかげだったりして」  にんまりと笑う愛子に、敵わないなと紗綾は苦笑いした。でも隠さずに颯斗のことを話せるのは愛子と功臣くらいだが、さすがに功臣と颯斗の話はしづらいので愛子は色々な意味で貴重な存在だ。そもそも愛子と友達になっていなければ、いまの颯斗との関係はなかった。頑なな子といい、愛子と出会えたことといい、颯斗とは本で繋がっていると紗綾はつくづく思い本の存在に感謝の気持ちでいっぱいになる。 「弟さんのおかげ。その通りね。彼のおかげで毎日が本当に楽しくて充実してるの。今までと同じことをしてるんだけど、心がね、いつのまにか弾んでる。そういう感じなんだ。生活全てを愛しく感じる。本当、恋ってすごいパワーがあるんだなって実感してる」
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