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「心配って何かあったの?」
紗綾の問い掛けに、愛子は「うん」と短く答えるとスマホを取り出しテーブルの上に置くと、見て、というように指を指した。
「ーーーえっ?」
画面を見た紗綾が一瞬で困惑した表情になった。画面に表示されているのは、短大の頃の自分の写真だ。一度だけ友人たちにされたメイクアップ写真だった。どうしてこんなものがと思うのと同時に、下に書かれた文章に血の気が一気に引いた。
『この人、女優Xに似てる気がするんだけど』
さらに画面をスクロールすると、女優Xの会見時、SNSで最初に拡散された街中での写真、そして短大の頃の写真三枚が並べた状態で比較され『ほぼ同一人物で確定?』と書かれている。
呆然としている紗綾の姿に愛子はため息をつき、眉間にシワを寄せ髪をかき上げた。
「やっぱりこの写真、紗綾なのね」
何も言わず紗綾は頷いた。まだ信じられないのか、画面を食い入るように見つめている。
「この写真を撮ったのって友達?」
「短大時代の…」
「今も連絡取ったりしてるの?」
頭を横に振りながら、紗綾は当時のことを思い出していた。メイクアップされた時、記念だからと言われてスマホを向けられた。撮らないでと言った紗綾に、そんなに固く考えないでよと言いながら写真を撮った人の顔を思い出した。
萩谷美梨だ。紗綾とは普段、ほとんど話をしなかった。この時写真を撮りに来たのも、みんなが騒ぎ出したから便乗したような感じだったはずだ。メイクも服装も常に完全武装体制で、彼氏も常に欠かさないことで有名だった。
「ううん。連絡先も知らない」
「名前は?」
「萩谷美梨」
スマホを手に取った愛子が、名前を入力した。
「字、これであってる?」
「うん」
検索をかけた結果が画面に表示され、愛子と紗綾は顔を見合わせた。
「これは黒ね」
「黒ってどういう意味?」
「目的があって紗綾の写真を晒したのよ。多分ね。これは私たちの手に負えないわ。優秀な弟に相談…ていうよりは、佐々木さんや社長さんの出番ね」
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