女優Xを探せ!

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 集まる場を社長の別邸にしたのは、女優Xの件で記者たちが事務所や颯斗の自宅、社長宅に張り込んでいるためだ。 「まーた面倒くさそうな奴だな」  平林社長は画面に目をやりながら、紗綾が持参したケーキをペロリと平らげた。隣で見ている颯斗は険しい表情のままだ。 「お前、この娘と面識あったか?」 平林社長に訊かれた颯斗が「いえ」と短く答えた。 「まあなー。共演でもしてりゃー覚えてるんだろうが。一回どっかで会ったくらいの相手じゃお前が覚えてるわけねーな。で、佐々木の記憶は?」 「確か一度だけ、同じ現場になったことがあります」 「ほう。何の現場だ?」 「トーク番組だったかと」 「ふうん。でも顔見たことねえな」 「お茶を運んでくるアシスタントでした。休憩中に颯斗に差し入れしてきたので、覚えてました」 「なるほどなあ。しかし、その売れないタレントが女優Xの短大時代の同級生だったか。世間は狭いなあ、颯斗」 「本当ですね」 そう返した颯斗の顔は誰が見ても怒りに満ちていて、平林社長は苦笑いした。 「お前、いま人気俳優にあるまじき顔してるぞ。しかも愛しい彼女にそんな顔見せていいのかよ。心配すんだろ」  言われて初めて自分が酷い顔をしていることに気づいた。紗綾が心配そうに見ていて、姉はこちらを睨んでいる。何やってんの、と釘を刺された気がした。 「紗綾。ごめん。大丈夫だから」 「うん。でも…私のせいでごめんなさい」 「いや。紗綾は悪くない。こういうのは、やる人間が悪いんだ。それははっきりしてる」  颯斗に言われても紗綾は納得出来なかった。結局はあの写真を撮られてしまったことが全ての原因だ。あの日お酒さえ飲まずにいたら、自分の足で帰っていたら。そんな考えばかりが頭をよぎる。颯斗を巻き込み、事務所まで巻き込んで、とてつもなく大きな事態になっているのに、自分自身では何の責任も取れないことが何より一番辛い。
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