女優Xを探せ!

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 顔合わせが終わり、帰ろうとする颯斗の控え室へは監督からベテラン俳優勢まで様々な人たちが訪れ後を立たない。主演だからというのはもちろん理由の一つだが、それだけではないことを佐々木はよく知っている。 「すみません、佐々木さん。中々帰れなくて」 「なーに。人気者の宿命だろ。業界内でもお前のファンは多いからな。一度は間近で演技を見たいなんて話もよく聞くぞ。役者として、お前がそれだけ一目置かれてる証拠だ」 「そうなんですかね。自分ではまだまだだと思ってるんで」 「それくらい謙虚だから伸びるんだろうな。颯斗。そのままで行ってくれよ」  もちろん天狗になるなよ、という意味だ。 「当たり前ですよ。役者って評価の基準が曖昧じゃないですか。評論家が素晴らしいって言えば良い舞台だったとか。映画やドラマだって、俺の顔だけ観てる人がどれくらいいるんだろうって思うんです。もちろん、それでも観てもらえればありがたいんですけどね」 「そうだな」 「結局は純粋に役者として評価されるのって難しいんですよね。だからいつまでも100点にはならないんです。なれない、が正しいのかな。だから、これでもか、これでもかって気持ちで向き合ってますよ、毎回ね」  佐々木が感心したように「へえー」と声を上げた。 「なんですか?」 「いや。大したもんだなと思ってさ。お前の役者としてのプロ根性は知ってたけど、そこまで貪欲だとはさすがに予想外だった。自分がマネージメントしてる役者が真摯な人間で俺は本当に嬉しいよ。感動してる」 「佐々木さんに育てられてますからね」 「何も出ないぞー」 「ははは」  二人で笑い合っていると、再び誰かがドアをノックした。 「はい」 佐々木がドアを開けると、そこにいたのは美梨で佐々木の顔つきが険しくなった。 「何か?」 「あの。相馬さんに差し入れをと思いまして」 「そうですか。颯斗、萩谷さんが差し入れくださるそうだ」 「それはどうも」  ドアまで歩いてきた颯斗の姿に、美梨が顔を赤らめた。 「あ、いえ。あの!実は以前にもお渡ししたことがあるんです!ーーー覚えてますか?」
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