192人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日の午後になり台本の読み合わせに現れた颯斗と佐々木の目に、入口付近に置かれた物が目についた。パイプ椅子の上に置かれた箱の中に色とりどりの小さな紙袋が沢山入っている。そして箱の手前には《差し入れです。全員分ありますので召し上がってください》と書かれている。
「萩谷さんからの差し入れみたいですよ」
覗き込んだ佐々木に気づいたスタッフが後ろから声をかけた。
「へえ。そうなんですか」
「若いのに、よく気がつくいい子ですね。一人一人名前がちゃんと書いてあるんですよ。わざわざ手間をかけてくれて。こんな差し入れ初めてですよ」
喜んで話す年配のスタッフの表情とは裏腹に、何を思ったのか佐々木の表情は険しくなった。
「一人一人名前をね…」
呟いた佐々木が颯斗の名前が書かれた袋を手にした。
控え室に入るなり佐々木から渡された紙袋を開けた颯斗は、中を見るなり苦笑いした。
「やっぱりですね」
「やっぱりだろ。そんなことだろうと思った。ある意味、期待を裏切らないな」
「まあ、人の写真を勝手にSNSにあげるような人間ですからね」
「そうだな」
クッキーと一緒に入っていたのは、美梨の連絡先が書かれた紙と颯斗へのメッセージカードだ。
《昨日はすみませんでした。相馬さんにはご迷惑をおかけしたくないので、皆さんにも配ることにしました。でも、相馬さんのだけは特別なクッキーです。お疲れが取れるといいんですけど。この業界に入ったのも、相馬さんに会いたかったからなんです。ずっとファンでした。本当に大好きです。同じドラマに出られるなんて夢みたいです。良かったらいつでもご連絡ください。どこへでも飛んでいきます。萩谷美梨》
最初のコメントを投稿しよう!