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「熱烈だな。それでどうするんだ?」
颯斗から受け取ったメッセージカードを読み終えた佐々木は、苦虫を噛み潰したような顔をして首を振った。これまでも颯斗に対しストーカー行為をするファンはいて、その度に苦労してきたからだ。だが颯斗は表情を崩さない。
「別にどうもしませんよ。ただ気に食わないのは確かです。俺にこれを渡すために名前入りで差し入れるとか用意周到過ぎて気持ちが悪いですしね。社長の計画通りにするだけです。彼女には自分の立ち位置を分かってもらいますし、紗綾に近づかせもしません。もちろん俺自身にも」
淡々と話す担当俳優の姿を頼もしく思いながらも、佐々木は背筋がぞっと寒くなるのを感じていた。
「俺も相当冷たい人間だと自覚してるけどね。颯斗が敵じゃなくて良かったって今つくづく思ったよ」
「なんですか、それ」
「言葉の通りだよ。お前は味方にしたら100万倍心強いけど、その逆も然りってことだな」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「そうしてくれ」
台本の読み合わせに入ると颯斗を纏う空気はガラリと変わり周囲の人々を緊張させた。相手役のRIRIも同様で、ただの読み合わせで終わらないことを確信していた。
「どうして分かってくれないの?慶吾にはちゃんと気持ち伝えてるのに」
「でもそういうスミレだって俺のこと分かってんの?ちゃんと伝えてるって言うけど、それはスミレがそのつもりなだけで。悪いけど俺には全然届いてないから」
尖った氷のように冷たい視線と感情を一切持たないような淡々とした口ぶりに、RIRIの背筋はぞくりとした。もう目の前にいるのは俳優の相馬颯斗ではない。決して結ばれることのないただ一人の女の子を思いながら、自分に群がってくる女子たちを冷めた感情で弄び続ける鈴木慶吾がいる。
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