56人が本棚に入れています
本棚に追加
春蕾を覆った水無月は大きな手に形の良い丸い後頭部を包み、抑揚なく、しかし穏やかに唇を合わせた。
恐怖の感情とは無縁だった春蕾の身体が僅かに震える。
彼はそれを隠すように水無月の首に腕を回し、少しだけ身を浮かせる。
繰り返しのキスを終えた後、水無月を惜しむように春蕾は目を閉じ、
「少しの間でいいから抱いてて」
と胸に顔を埋めた。
目の前の空が明るくなってゆく頃、春蕾は自分から車のドアを開けて降り立った。
「多分これが最後だね」
身を屈めて運転席を覗き込む青年を見据え、水無月は軽く頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!