陥ちない男〈ひと〉

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春蕾を覆った水無月は大きな手に形の良い丸い後頭部を包み、抑揚なく、しかし穏やかに唇を合わせた。 恐怖の感情とは無縁だった春蕾の身体が僅かに震える。 彼はそれを隠すように水無月の首に腕を回し、少しだけ身を浮かせる。 繰り返しのキスを終えた後、水無月を惜しむように春蕾は目を閉じ、 「少しの間でいいから抱いてて」 と胸に顔を埋めた。 目の前の空が明るくなってゆく頃、春蕾は自分から車のドアを開けて降り立った。 「多分これが最後だね」 身を屈めて運転席を覗き込む青年を見据え、水無月は軽く頷いた。
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