陥ちない男〈ひと〉

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─── いろいろな意味で自由となったこの日から、李子は毎日朝食と掃除を済ませた後は買い物がてら体力をつける為に散歩するつもりでいた。 反面、いつ水無月が来るかも知れないと思うと、おちおち出掛けてもいられないとも思う。 「これからのこと、相談に乗って貰いたいって言ったら迷惑かな、、、」 今日来るか、明日来るのか、、、 悶々と考えを巡らしながら、それでも朝食の容器ゴミを纏め手を洗っていると、調理台に昨夜木瀬が運んで来たフレンチレストランの器に目がいった。 その店は、ここらで用いる使い捨てのパックではなくセラミック製の白い蓋付き容器でデリバリーするらしく、食事の後、李子は丁寧に洗い伏せて置いていた。 木瀬が食事を届けたついでに使用済みの容器を返すのだ。 その容器の裏面をよく見ると中央に店のロゴらしき文字が入っている。 「木瀬さん、コウさんはこの店の敷地内に住んでるって言ってたっけ」 わざわざ木瀬が話してくれたのに気に留めることがなかった、と李子は自分に呆れた。 当然といえば当然である。 「自分から会いに行く発想が無かったんだ、僕は」 李子は慌ててスマホを手に取り、 皿に印字された『le bois(ル ヴォア)』という店をフレンチレストランで絞り検索してみた。 ヒットしたのは一件、そこから掲載されている地図に飛び、チャイナタウンからの経路を調べてみる。 「電車で乗り換えが2、いや3回か」 何しろ公共の交通機関は全てが未体験で、乗り換えがどのような手順かも分からない李子には、自身が路線案内のアプリが示す時間通りに到着できるかさえ疑わしいと思った。 が、 一分ほど画面を眺めた後、李子は顔を上げた。 荷解きしていない紙袋からサコッシュを取り出し、そこにスマホと僅かな現金、いつか水無月が上着のポケットに入れたまま置き忘れて行ったバーリーウォーターを詰め、大切な荷物と共に肩に掛ける。 「行ってみよう」 水無月のスーツを手にした後、再び底の擦り減ったビーチサンダルに足を突っ込んだ。
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