秋霖

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「怪我は」 『突き飛ばされて落ちた』という言葉に、水無月が短く鋭く訊いた。 「聴き取りと画像を見る限りでは無事かと思われます。 駅事務室から飛び出した後も元気いっぱいに走ってましたから」 「二課に連絡、男の行方を追え」 「既に手配しました」 「李子が何故逃げたか訊いたか?」 「担当した駅員曰く、李子さんは切符を持たず名前もまともに名乗らなかった為、警察に通報すると伝えたそうです。その直後に逃げた、と」 「あいつは被害者だろ」 「構内に住み着こうとするホームレスと勘違いされたのでしょう」 「ホームレス?」 「身なりによる先入観は大きいのです」 「はん、揃いも揃ってどこ観てんだか。 あんな小綺麗な顔したホームレスがいるかよ」 「顔の綺麗さは関係ないかと」 「おいおい、そんなことより」 鵜飼がカウンターから身を乗り出し二人の会話を割った。 「駅を出た後の李子君の足跡(アシ)追ってるか? 今どきは街中に防犯カメラがあるんだから本庁(母屋)の情報解析課行ってすぐに追跡した方がいいんじゃないのか?」 「はっ、、、そうだ! そうそう! そうでした!」 キセはその言葉に目を見開き、慌てて自身のスマホを取り出した。 「すっかり忘れていました。 先日僕が作成したこちらのアプリがあれば、、、」 木瀬の手の先に目を遣り、鵜飼と水無月が声を合わせる。 「アプリ?」 「ふへへへっ、、、いきますよ? じゃじゃ〜んっ! 春馬お手製、最新万能追跡アプリ、『(つい)キセくぅ〜ん』」 「ツイキセ?  それを言うなら(ツイ)セキ(・・)だろ?」 言う鵜飼を無視し、木瀬は画面を水無月の顔に着くほど間近に見せた。 「水無月さん、是非この『(つい)キセくん』をダウンロードしてみて下さい。 李子さんの顔認証は既に登録してありますので、これさえあれば街中の主な防犯カメラにアクセスし、彼の行方を追うことが可能なのです」
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