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呑気に眠りに就く李子はいいとして
───
「あーあ、電池切れか。
とうとう寝ちゃったな」
同じ時刻、レストラン『le bois』の裏にある部屋に食事を持ってやってきたオーナーの鵜飼が水無月のスマートフォンを覗き込んで苦笑した。
この男は午後の間も気が気でなく、何度かやって来ては水無月と一緒に李子の動きを追っていた。
さすがの水無月も片手で顔を覆い、ため息をつく。
前にあるテーブルには見慣れた報告書の雛形があり、非番とはいえ李子の監視に併せて仕事も熟していたと見える。
「あちこち彷徨かなきゃとっくに到着してるんだがな。
あいつが初めて自ら外の世界に出て楽しんでいるんだ、想定外だが仕方ない」
「場所的には治安が悪いというわけでもないけど、、、。
このまま見守るのか?
お前、北川 祐樹の不審死にかかりきりで一昨日から寝てないんだろ?」
「映像にあるベンチは公園入口にあるハコ(交番)と二分の距離だ。
念の為巡回依頼もしてるから問題ないだろ」
「心配なのはお前の寝不足だっての」
「別に。
こいつの寝顔見てる分には眠気も差してこない」
件の後であっても、動じない水無月の精神性に鵜飼は感心を通り越して呆れた。
というのも、水無月の居場所を預かる鵜飼の元には、現職の頃より刑事部長から直々に連絡が入り、水無月の動向を逐一確認されている。
捜査や取り締まりのついでに違法行為を重ねる部下を上司なりに守る為の事前防衛策なのだろうが、その中で鵜飼は昨日、水無月が足繁く通っていた桃姑界隈の男娼、北川祐樹(通名 春蕾)の死亡を知り、この男が睡眠もろくにとらないまま原因究明にかかっているのを案じたのだ。
「心労でないなら寝ろよ。俺が見ててやるから」
「二日、三日は日常だ、放っておいてくれ」
鵜飼はやれやれと首を振り、手元の画面を見守る水無月の横に腰を降ろした。
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