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疲れも見せない横顔をチラと見遣り、
「で、検死の結果はどうだったんだ?
自ら取水口に飛び込んだってことで落にすんのか?」
訊くと、水無月は報告書を取り上げ、忌々し気に小さく揺らした。
「検死もクソもねぇ。
北川が見つかったのは海水取り込み口に設置された海洋雑物を粉砕するローラーん中だぞ?
しかも『センサーが検知して人が絡んだ』とわざわざ黒鱗から報告を受けたのが先週の話だ。
その後の調べで、DNA鑑定で引き上げた遺体の各部は確かに北川祐樹のモノだと分かったが、肝心の事件か事故かははっきりしなかった」
「防犯カメラは?」
「この三日で全ての映像を手に入れ調べ上げたが、どこにも写っていない。
現場と思しき場所も検分したが、港にカメラの死角は山程あった。
自ら海に落ちたにしろ、誰かに落とされたにしろ、取水口に取り込まれるのは普通にあり得るから、変死止まりで報告書を上げるしかない。今のところはな」
『今のところ』と付け足した以上、水無月という男はとことん真相を究明するだろう。
だが、
「職務を抜きにしたお前個人の見解を聴きたいね」
男娼とはいえ、懇意にしていたならば、悔恨や哀悼がいくらかあっても良さそうなものだと水無月の心中を推し測った。
「個人の見解、か。
だとすると100パー自死だな。
出自の秘密や成長過程で北川に過酷な環境があったことはお前も知ってるんだろ?」
「、、、ああ」
「俺は宿命って言葉は嫌いだ。
親ガチャだとか言う不幸は確かにある。
だが、加害者の遺族だろうと被害者の遺族だろうと、恨みや自責の念ばかりに留まるならば、それらは間違いなく怒りとなって他人に向かい、いずれは自分に戻る」
「桃姑通りの男娼殺しも、復讐というよりは行き場のない怒りが動機だったってことか。
そしてとうとう自らを、、、。
しかし不思議なもんだな、俺が聞いてる限りで言えば北川祐樹ってのは、この李子よりはるかに強かに思えるんだが」
会話しながらも李子の寝顔から目を離すことない水無月の顔に、僅かにだが北川 祐樹に対する無念の翳りが見えた。
「強い者が生き残るんじゃない。
変化できる者が生き残るんだよ、
この世の中は」
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