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✦ おまけ 2✦ 九織の衝撃
その日から更に数日経ったある日の午後、
「どうしたんだ? 九織」
レストランle bois裏にある倉庫から戻った青年の慌てぶりを見て、鵜飼が声をかけた。
『九織』と呼ばれた青年は李子と同じほどの年齢で、ル ヴォアのギャルソンである。
ディナー営業の手前にあたる休息時間、九織は李子に街を案内しがてら、買い物にでも誘おうと倉庫へ向かったはずなのだが。
「どうしたもこうしたも」
頬のみならず顔全体を真っ赤に染めた九織は鵜飼の手を取って屈み、大きく息を切らせていた。
「李子君と出掛けようと思って誘いに行ったら部屋に、部屋に水無月さんがいてっ」
耳まで真っ赤にして口走る九織を見下ろし、
「あー、あいつ今日の午後から非番だっつってたから。
だから何だよ?
そんなに慌てることもないだろ?」
鵜飼は高らかに笑った。
「慌てることあるよ! 大あり!
二人がエッチしてるの知らないでドア開けちゃったんだもん!」
平和的な李子と時を空けずしてすっかり打ち解けた九織。
大抵のことでは驚かない、少しばかり呑気な気質の青年が意気揚々と倉庫のドアを開けたところ、表情という表情もない無口な男と、もの静かな印象を持つ美青年の絡みを目の当たりにして驚いたのかと、鵜飼は初心なギャルソンを愛らしくも面白く感じた。
「水無月のやつ、李子君をあの部屋に迎えてから毎日真面目に帰ってる。
これまでのこと考えたら信じらんねぇくらい入れ込んでるから、そりゃ昼日中からでもアリだろ。
で、二人の蜜月ぶりを見て慌てちゃったんだ? 可愛いなぁ、九織は」
「僕のことはどうでもいいの!
そんなことより李子君だよっ、李子っ」
何のことか今一つ理解できなかった鵜飼は、暫くして『ああ』と天井を仰いだ。
「彼、水無月から乱暴に突きまくられて『あんあん』啼いてたとか?
まぁな〜、普段はジジ臭い水無月だけど、年齢的には若いっちゃ若い、性欲も強そうだし。
これから大変だわ、あの子。
可哀想に」
肩に置かれた鵜飼の手を払い、九織は頬を膨らませると、白く繊細な指を立てて左右に振った。
「そう思うよね?
そう思うでしょ? それが違うの」
「はぁ〜? 違うのか?
、、、なら。
うそっ、まさか、李子くんが水無月を?」
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