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その水無月といえばテーブルに置いてあった、自身が持つステンレスの薄型ケースから取った紙巻き煙草に火を点けると、大きく一吸い、そして吐いた。
水無月が嗜んでいるのは、通称『スノーセージ』という煙草だった。
セージと呼んでももちろん隠語であり違法麻薬だ。
が、一般的な薬物の類とは異なり、躁鬱などの疾患に処方される抑制剤、炭酸リチウムに似た効果がある。
つまりこれを高濃度で摂取すると人や物事に対する興味や感情を失墜させるため、海外では執着性の高い知能犯、又は凶暴な精神疾患を持つ者を永久的に『廃人化』させる目的で過去、極秘に投与されていた事例すらあるほどだ。
現在においては、この特殊な作用に目を付けたマフィアが人を廃棄する際、静脈に注入するなどして記憶を欠損させるのに利用している。
国内では黒鱗だけが入手ルートを持つことから、水無月はこの入手し難い薬物を煙草の形状で買い求め、自ら喫煙摂取することでマフィアに弱みを握らせた。
結果、長年警視庁では不可能とされていた黒鱗の老板、綾野への接触に成功したのだ。
薬物だけでなく毒物、武器に於いてもどこまでが自身の耐えうる限界かを水無月は知っている。
また、そうした行為だけが闇の組織に迫る手段であることも。
だからこそ水無月の上司である刑事部長は全てを把握しながら長きに渡り『黙認』という覚悟を決め込んでいるのだ。
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