Chaos カオス

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水無月は射精後の残滓に身震いする李子を綾野から引き抜くと、脇に放られたプライヤーを拾い上げ軸の部分にロープを噛ませて断ち切った。 思うように動かなくなってしまった冷たい手を胸に引き寄せ、李子は逃げるようにして水無月の胸に顔を寄せたのだが、水無月はあえて綾野の方へその面を向けて訊いた。 「黒鱗継承者の印、お前の父親が落とした胤の証は李子にあったかよ?」 突然の問い掛けに対し、綾野の面に微細な反応が現れる。 水無月はその変化を見逃さなかった。 綾野が見せたそれは黒鱗の大老板、つまり綾野の父親にはもう一人子供がいることの裏付けでもあり、綾野が固執する口の中に、どうやらその証明があるらしいことも踏まえている。 水無月は木瀬が得た情報と事実が合致するのかをこの場で観察していたのだ。 「二十年ほど前、大陸にいる黒鱗の大ボスは花園街に滞在した際、桃姑(タオシャン)界隈の娼婦を愛人として囲ってたそうだな。 その女との間に子供を一人もうけてる。 その非嫡出子にはある顕著な特徴があり、お前は内々に該当する人物を探していた。 んで、コイツにはそれがあったのか?」 綾野は自らを勃たせたまま暫くは沈黙を保っていたが、公になってない情報の相当量を水無月が手にしていると判断すると、李子の顔へと手を伸ばし、開かせた口の上顎に当たる部分を覗きながら言った。 「ありませんね、彼にその印は。 しかし水無月さん、貴方は一体どこでその情報を?」 水無月に向かい『騙したのか』とでも言いたげな音を含ませ尋ねる。 「どこでだと? 日本の警察舐めんな。 こちとら日本中の技術者掻き集めて日々在日マフィアの組織解析してんだぞ。 さっきお前が連れてきた一見ガキみたいな遣い走りの刑事、あれだってああ見えて十億人に一人いるかいないかのギフテッドとかなんとかつってな、朝から晩までてめぇらのサーバーに入り込み、大老板が在日していた頃の動きまで掘り起こして精査してんだ」
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