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───
─ え
戸口に向かう水無月に息を飲んだ後、李子は行く先を立ち塞いだ。
「あのっ、、、。
コウさんは、コウさんはここに、この家に、一緒に、僕と」
水無月を留める事に焦るあまり、思い込んでいた言葉だけが羅列となって李子の口をついて出た。
同時にスマートフォンの振動音が鈍く響く。
水無月は光る画面を眺めながら静かに言った。
「一緒に、か。
悪いがここは俺が住む街じゃない。
お上の気まぐれな辞令で赴いただけのいわゆる捜査現場だ。
この家を与えたのは俺の『自欲』であって、お前にとっては見返り。
街全体が家族のような花園街に留まることがお前の望みで、その方が暮らし易くもあるだろうと思ったからな」
『北川 祐樹』と表示している着信を止め、水無月はスマートフォンを手にしたままドアを開けた。
「そ、、、んな」
躊躇と失望、そして焦燥を顕にした李子の頭に手を乗せ、水無月は目元を緩めながら噛んで含めるように言い聞かせた。
「別に見放すわけじゃ無いから安心しろ。
互いの主張を擦り合わせた結果がこれってことだ」
「待って下さい。
違います、僕の望みは、、、っ」
言いかけたものの、李子には続く言葉が出てこない。
そんな彼の戸惑いを水無月はいつもの如く暫し見守った。
表に出せない本心を李子が自ら発信するのを待っているかのようでもあった。
そして今回も十数秒経ってから頭に置いた手を肩に移し、
「たまには顔を出す」
と、言い置いて立ち去った。
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