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周到に部屋が用意されていた理由は分かった。
しかし今日だけで様々な情報を耳にし、水無月と綾野の思惑に巻き込まれた李子には、事の実態という点と点が頭の中でうまく繋がらなかった。
突然空き家に放り込まれて戸惑う李子を見て木瀬はニコッと笑い、真っ白い陶器の茶器にコロコロとした茉莉花の葉をこぼし入れながら話し出した。
「水無月さんは言葉に配慮もなく、自分の考えを詳しく伝達する親切心も無い人ですから。
僕も刑事の立場から全てを言えるわけではありませんが、まず、男娼連続殺人事件の犯人と、綾野の野心にブレーキをかける、もう一人の黒鱗後継者は同一人物なわけでして」
『ちょっと待って下さいね』といってケトルを取って戻った木瀬は茶器に湯を注ぎ、ダンボールから取り出してきた器を三つ並べた。
次に二つの器に茶を淹れ、『これは香りを移すだけですので捨てます』と言って、残りの一つの器に淹れたばかりの茶を移した。
「少し話が逸れますが、綾野は祖国にいる父親、つまり大老板が愛人との間に作った子供を探していた。
その理由は分かりますね?
そう、ご自身の立場を危うくさせないよう、監視下に置いておきたかったからです。
水無月さんはその人物が李子さんであると彼に匂わせて手を付けさせた。
そうさせることで貴方は桃姑荒らしに与えられる死の制裁から守られたのです。
ここからは綾野に並ぶもう一人の後継者の話となります。
大老板と愛人との間に生まれたのは当初、女児ということでしたが、これはどうやら後々の内部分裂を避ける為の偽情報だったらしいのです。
正しくは男児でした。
現在の年齢は李子さん、貴方の推定年齢と同じ18」
「その子が連続殺人犯、、、?
でも何故」
少し待って木瀬は二つの器に改めて茶を注ぎ、
「さあお茶が入りました。
暑い夜に熱い飲み物ではありますが、冷え体質には良いのです。
一緒に飲みましょう」
と言い、李子に茶を差し出した。
「綾野の異母兄弟は、自分が黒鱗の後継者であることを元々から知っていたのでしょうね。
また、大老板の愛人が自分の母親だけでないことも。
、、、李子さんのお母様もそのうちの一人だった可能性があります」
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