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「僕の母が?」
「当時の大老板は娼婦、しかも日本人の娼婦がお好きだったようで。
彼は選んだ愛人達に純金製のパースフレームでできたポーチをプレゼントしています。
李子さんのお母様も持っていましたね?
真珠や稀少な貝殻を散りばめた白いポーチです」
「は、はい」
「貴方の母親に殺された女性も同じ物を持っていました。つまり、桃姑の連続殺人犯は、大老板の非嫡出子であり貴方の母親に殺された被害者の息子、ということになります」
「そ、、、そん、な」
「これらのことは、ごく最近になって分かったことです。
水無月さんは今回の事件が発生する前、正しくは李子さんのお母様が亡くなってから、それこそずっと、ずーーーっと貴方の出自を調べていたんですよ。
この街の商人で水無月さんを知らない人はいません。
それは彼が花園街の店を繰り返し、一件も漏らすことなく訪ね歩いたからです。
店主らから当時の話を聴き込み、古い写真などを見せて貰い、その中に貴方のご両親の手掛かりを探していたからなのです。
結果としては努力虚しくご両親の身元が日本人、ということ以外わかりませんでしたけどね。
ですが、その間にもチャイニーズマフィアの動向調査に構成員の監視、事件事故が発生すればその詳細把握と報告、特に今回の連続殺人事件では桃姑の男娼ばかりが狙われたので、疑うなら身内からと、彼らからDNAを採取する作業も増えて大忙し。
娼館通いはその為でもあったと思われます」
木瀬はゴクリと茶を飲み、椅子の背もたれに身を預け続けた。
「と、まあこんな風に言葉では楽に言えますけど、黒鱗の目が光る中でそれら捜査を掛けるのは大変なことです。
正に水無月さんしか成し遂げられない仕事でしょうね。
でもまっ、ここ数日で世間を震撼させた連続殺人事件は一気に解決へと向かいますし、引き続き我々の活動について老板である綾野と折り合いもついたようで少し楽にはなるかと。
李子さんにしてもそうです。
この家で以前よりはもっと健康的に、安全に暮らせることでしょう。
今後も水無月さんは花園街に関わりますが、かたや新たな現場も抱えねばなりませんので、李子さんの見守りを僕に半分託したような形です」
ざっと聞かされた経緯だけで、李子は目眩がしそうだった。
山程の危険な仕事を抱えた上に、自分の出生に関する情報を集め回ってくれていた。
それなのに保護司である水無月の忠告を無視し、更には命まで救って貰っていたのだ。
「僕は、、、何も知らないで」
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