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「世間を震撼させた桃姑の男娼連続殺人事件。
犯人はやはり君でしたね」
逮捕すると宣言した割にはベッドの上に正座し、向き合った春蕾に指を差してニヤリと木瀬は笑う。
「特殊な街の中で起こった動機の見えない愉快的犯行。
今後花園街に語り継がれる特殊な事件、と言っても良いのです」
目を合わせている時はふやふやとした柔さを醸し出す新人刑事だが、手や服に這わす視線は鋭い。
水無月の傍らで働くうち、危険物を所持してないかなど、無意識に確認する癖が身に着いたようだ。
一方、自分に向かう指をスッと掴んだ春蕾は、まるでマジックのタネ明かしを待つ子供のように好奇心いっぱいの目で木瀬を見つめた。
「なんか語りたそうだよね。
、、、いいよ、今度はちゃんと聞くから言ってみなよ。
犯人が俺だって断定した理由をさ」
『詳しく話せ』とか『語ってみろ』或いは『証明せよ』と言う言葉は木瀬の大好物である。
「簡単です。
今ドキの科学に基づいた捜査では、ほら、こんな風にですね、服に触れた指紋やDNAも採取できるのです」
そう言って木瀬は掴まれている指を抜き、その指の腹で春蕾の服を一撫でした。
「事件があった全ての現場では清掃後でも貴方の痕跡を見つけることができました。
裏付け調査でもクークアのアイスが大量のドライアイスと共に届けられていることや、店に注文を入れた人物が毎回貴方であることなども分かっています」
「なるほどね」
「Shantung Bayの事件では、被害者が発見されたのは浴槽内でした。
残留物を調べましたら、なんと残り湯に一定期間固形二酸化炭素が高濃度で溶け込んでいたという痕跡が見つかったのです。
そこで僕は、過去にロシアで起きた二酸化炭素による死亡事故を思い出しました。
あるセレブのパーティで、主催者がプールに幻想的なスモークの演出をしようとしてドライアイスを沈めたところ、十数名の死傷者を出してしまった。
それで今回の事件では犯人、つまり貴方はこの事故に目をつけて犯行を計画したのではないか、と推測したわけです」
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