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花園街
首都に隣接する郊外の港町。
その一帯を占める日本最大のチャイナタウン、通称花園街。
日中は健全な空気と観光客によって活気に満ち溢れ、年配者は飯店や酒家、若者らは雑貨店や流行りのスイーツショップに長蛇の列を作る。
スイーツに限らず流行りのショップについては季節ごとに変化するが、その中身を見ればジェラートがホットチョコなどのドリンクに成り変わって値段を上げ、コラボするキャラクタープリントのトッピングと共に店頭で売られるという安易なものである。
しかしそれら店の収入は馬鹿にならず、僅か2、3メートルほどの間口を抱えた店が常にフル回転すれば、名を馳せた飯店の売り上げを凌ぐほどだった。
もちろん、インフルエンサーによって人気を煽られたコスメ、ヘアサロン、アクセサリーの店なども同様で、最近では男女問わず地下アイドルによるライブやイベントによる収益も増え、街は日々を追うごとに潤い、成長していた。
そんな観光地花園街だったが、街に妖灯がともる時刻になると、赤を基調とした通りは少しづつその表情を変える。
路地裏の暗闇は街を行き来する住人たちによってぼんやりとした灯りが燈され、流行りのスイーツやコスメ店が鳴りを潜めると、入れ替わるようにして茶餐廰(大衆食堂)が異国の言葉と湯気によって活気出す。
格好ばかりの土産物は店先から引っ込み、代わって日用品や山盛りにされた乾物や食用種子、茶などが揃って路上までせり出し、中から椅子を持ち出した年寄りが店番としてその横に陣取る。
飴色にローストされたアヒルや鶏の丸焼きがヒートランプを浴びてツヤを放つ中、肉を捌き、骨を断つ包丁の音があちこちで響き始めると花園街本来の夜が始まる。
観光客が帰路につく中、開放した店の天井ファンは空気を動かし始め、包子屋台の蒸籠が噴き出す蒸気や、茶楼から漏れる緩やかな湯気が黒い空に立ち昇り、その先でぼやけては消えてゆくのだ。
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