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「ふん、珍しいこともあるもんだな。死体の写真を見てはげえげえ吐いてばかりいたお前が、自分から生の死体を見たいと言い出すとはな」ガマ警部が意外そうに言った。
「……そうですね。正直、見なきゃよかったって気持ちもあります。でも自分、ここであの子の死体を見ておかなかったら、一生被害者の死と向き合えないような気がして……。特に今回の被害者は高校生ですから、余計にこう、感情が入っちゃってるのかもしれません」
高校3年生と言えば17歳か18歳。まだまだ人生を楽しみたい盛りで、やりたいこともたくさんあっただろう。それを全て奪われたことの不条理が、木場にいつにない憤りを感じさせているのかもしれなかった。
「ふん、いつも言っているが、捜査に私情を挟むのは禁物だ。被害者に同情するのは勝手だが、感情に捕らわれて目的を見失うなよ」
「……わかってます。自分、今回はいつもと違いますから」
木場がそう言って立ち上がった。闘志を燃やしたその目は確かにいつもとは違って見える。ガマ警部は少しだけ感心して息を漏らした。一見何の進歩もないようで、こいつも少しは成長しているのかもしれないな。
「よし、さっそく関係者に話を聞きに行きましょう! 進路指導室でしたね!」
木場は気合いを入れるように言い、猛然と身体を回転させて来た道を引き返そうとした。が、すかさず渕川に呼び止められた。
「あ、進路指導室なら東側の階段から行った方が早いですよ。ここの真上ですから」
木場は一瞬固まったが、すぐに振り返って気まずそうな笑みを浮かべると、再び猛然と身体を回して東側の階段を駆け上がっていった。
ガマ警部が額に手を当ててため息をつく。前言撤回、やはり木場は木場のままだ。
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