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「……まぁ、捜査に協力してもらえるのは何よりだ。ではまず、昨日のあんたの行動を聞かせてもらおうか?」ガマ警部が気を取り直すように尋ねた。
「はい。私は昨日、朝の10時から補習の予定でしたので、9時には学校に到着して教室を開錠いたしました。その後、11時から野中先生の面談を受け、お昼を挟み、13時から15時まで再度補習を受けておりました。その後、15時からは図書室で自習をし、17時ごろに帰宅いたしました」
敦子がするすると答えた。機械が台本を読み上げているような淀みなさだ。
「補習を3つも受けた上に自習……勉強熱心なんだね」木場が感心した。
「受験生ですから当然のことです。私はのほほんとしている人達とは違うんです」
敦子がつんと取り澄まして言った。自分が愚かな発言をした気になり、木場は縮こまる。
「それで、今朝の行動は?」ガマ警部が促した。
「はい。今朝も10時から補習を受ける予定になっておりまして、いつものように1時間前に到着して、職員室へ鍵を借りに参りました。
ただ……教室に行ったところ鍵が開いておりまして、私はおかしいと思いながら扉を開けました。中に入って、誰かいないかと教室を見回してみたら……後ろに、その、人が倒れているのが見えて……」
その時のことを思い出したのか、さすがの敦子も言い淀み、不快そうに眉根を寄せた。
「死体はどんな格好で倒れていた? 仰向けか? うつ伏せか?」
「うつ伏せでした。だから私、最初は児島さんだということも気づきませんでした。制服を着ていましたから、この学校の生徒だということは把握出来ましたけれど」
「それで? 倒れている生徒を見つけてあんたはどうしたんだ?」
「私……まさか死んでいるなんて思いませんでしたから、その人のところに駆け寄って、大丈夫ですかと声をかけたんです。でも、いくら揺さぶっても反応がなくて、おかしいと思って顔を覗き込んでみたんです。そうしたら……」
敦子が身震いした。死体と目が合った時の恐怖を思い出し、木場が同情した視線を彼女に向ける。
「その後は? 警察に通報したのか?」
「いえ……とにかく人に知らせなければと思って、職員室に人を呼びに行きました。野中先生の他、何人かの先生がいらっしゃったので、一緒に教室に来て頂きました。警察への通報は先生がされたと思います」
「野中というのは、担任の化学教師のことだな?」
「はい……先生も相当ショックを受けておられるようでした。まさか自分のクラスの生徒が殺されるなんて……想像もされなかったでしょうから」敦子が頬に手をやってため息をついた。
「あんた自身はどうだったんだ? 学級委員長として、自分のクラスの生徒が殺されたことにショックを受けていないのか?」
「もちろん、『あれ』を発見したことはショックでした。あんなもの……低俗なドラマの中にしかないものだと思っていたのに、まさか実物を見ることになるなんて……」
敦子が忌々しそうに眉を顰める。沙絢の死にショックを受けているというよりは、自分が死体を発見する羽目に陥ったことを憤っているようだ。
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