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「古賀さんは、児島さんと仲良くしていたわけではなかったの?」木場が尋ねた。
「私が? まさか。あの人は私とは対極の人間です。学級委員長として指導することはあっても、仲良くだなんて……」
敦子が吐き捨てるように言った。そんなことを口にされるだけでも屈辱だと言わんばかりだ。
「学級委員長の古賀さんと対極となると……児島さんは素行が悪かったってことなのかな?」
「ええ、不良といっても差し支えありませんでした。遅刻は日常茶飯事、授業中はいつも居眠り。ですが人当たりがよかったせいか、たびたび校則違反を起こしているのにもかかわらず、先生からは何のお咎めもありませんでした」敦子が嘆かわしそうに首を振った。
「つまり、児島さんを殺すような動機を持つ人はいないってこと?」
「はい。私の知る限り、児島さんを嫌っていた人はいませんでした。明るくて人懐っこい性格でしたから、生徒だけでなく先生からも可愛がられていました。まぁ……私に言わせれば、それはあの人の本性ではなかったと思いますが」
「どういうこと?」
木場が訝しげに尋ねた。敦子は冷涼な目で木場を見据えると、蔑むように言った。
「児島さんは処世術として、『明るくて人懐っこい性格』を演じていたということです。児島さんは、自分がどういう言動をすれば人に愛されるかがわかっていた。校則違反を繰り返しているのにお咎めがないのも、彼女が人好きのする性格を演じていたからです」
「つまり……児島さんは、計算して自分のキャラクターを作っていたってこと?」
「おそらく。もしかすると犯人は、児島さんの『見せかけ』に弄ばれた人間かもしれませんね。彼女の本性に気づき、騙されたことに激怒して殺害した」
「ふむ……だが妙だな。あんたは被害者と親しくしていたわけではなかったんだろう? それなのにどうして被害者の性格が見せかけだとわかる?」ガマ警部が訝しげに尋ねた。
「洞察力があればすぐにわかることです。特に、児島さんといつも一緒にいるあの人と比べればその差は一目瞭然ですから」敦子が事もなげに言った。
「あの人?」木場が首を傾げた。
「松永さんです。児島さんの親友の」
「あぁ、今進路指導室で待ってもらってる子だね」
「はい、松永さんは児島さんとよく似ていました。一緒にいると双子みたいで、2人して何をしても笑って許されていました。
ただ、お2人を見ていると、松永さんは元々がそういう性格なのに対し、児島さんのそれは作り物めいて見えたんです。おそらく児島さんは、松永さんと一緒にいることで、自分を松永さんと同類に見せかけようとしていたのではないかと」
「ふうん……。にしても古賀さん、児島さん達のことよく見てるんだね」木場が感心して息を漏らした。
「学級委員長ですから、クラスの人間関係を把握するのは当然のことです」
敦子がお決まりの文句を口にしたが、木場はどうもそれだけだとは思えなかった。敦子の沙絢に対する洞察には、学級委員長が不良生徒を監督する以上の、何か執念のようなものがある気がしてならなかった。
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