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「どうだ? 木場。あの古賀という生徒の証言は」
敦子を進路指導室に返し、空になった教室でガマ警部が尋ねてきた。
「そうですね……。何というか、かなり『委員長!』って感じでしたね。自分が高校生の頃を思い出しましたよ。放課後帰ろうとすると、モップ持って自分の前に立ちはだかって、『木場君、今日掃除当番でしょう?』なんて言われちゃって。いやぁあの時は怖かったですねぇ」
「お前の昔話は聞いとらん。証言内容について答えろ」
ガマ警部がぴしゃりと言った。木場が叱られた子どものように首を竦める。
「そうですね……。正直に話しているように思えました。死体を発見した時の状況はよくわかりましたし、被害者の性格についての話はかなり興味深かったです」
「そうだな。ただ奇妙なのは、何故あの娘がそこまで被害者のことを気にしていたかということだ。不良生徒ということで目をつけていたのかもしれんが……」
「あ、それ自分も思いました。被害者のことを毛嫌いしてる割によく見てるなって。古賀さん、被害者と何か個人的な関わりがあったんでしょうか?」
「わからん。だが、あの娘が言っていた、『被害者の見せかけに弄ばれた人物』というのは、案外自分のことを差しているのかもしれんな」
「え……じゃあ、古賀さんが犯人の可能性もあるってことですか?」
木場が目を丸くした。人気のない教室で、眼鏡のレンズを怪しく光らせながら、水筒に粉を入れる敦子の姿を想像する。
「不良生徒を排除するのが学級委員長の務めだと考えているなら、あるいはな」
ガマ警部が面白くもなさそうに言った。本気でそう考えているわけではないようだ。
「とにかく、今は情報を集めるのが先だ。被害者の水筒に毒が混入されたタイミングがわからん以上、アリバイを探ることも出来ん。先に残りの2人の話を聞くとしよう」
「わかりました! じゃあ次の人を連れてきますね! えーと、被害者の親友と彼氏でしたね。どっちから話を聞きますか?」
「そうだな。古賀の証言に出てきた、松永という女子生徒に話を聞きたい」
「親友の方ですね! わかりました!」
木場は勢いよく頷くと、クラウチングスタートを切ったように教室を飛び出して行こうとしたが、勢い余って教室の扉に頭をぶつけた。
「あいてっ!」
木場が額を抑えてドアの前に屈みこんだ。ガマ警部が額に手を当ててため息をついた。あの古賀という学級委員長、まずはこのそそっかしい若造を何とかしてもらえないだろうか。
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