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「唯佳ちゃんは、児島さんと仲がよかったんだよね?」
「うん、ユイと沙絢、1年の時からずっとクラス一緒で、好きな服とか化粧品とか、男の子のタイプとか、全部一緒だったんだ。
沙絢ね、ユイにいろんな話してくれたの。センセーに可愛がられる方法とか、女の子の友達と上手くやっていくコツとか、『ヨワタリのスベ』みたいなこと? ユイ、沙絢のそういう話聞くの楽しかったんだぁ」
「そ、そうなんだ……」
木場は困惑を隠せなかった。『世渡りの術』などという言葉を使う唯佳が、あまりにも無邪気な様子だったからだ。滔々と処世術を語る沙絢と、純粋な尊敬を持ってそれを聞く唯佳。双子のような見た目であっても、中身はまるで違った2人の姿が目に浮かぶ。
「ところで、あんたは昨日、被害者が水筒を持っているのを見たのか?」ガマ警部が不意に口を挟んだ。
「水筒? あぁ、沙絢が持ってたやつね。あれ可愛いんだよね。ファニーちゃんの柄で」
「ファニーちゃん?」
「うん、オジサン知らない? 今JKの間で流行ってるキャラなんだけど」
「聞いたこともない。木場、お前は知っているか?」
「さぁ……自分も知りませんね。妹に聞けばわかるかもしれませんけど」
「もー、ダメだよ。ちゃんと流行は追っかけないと。ファニーちゃんってウサギなんだけど、ちょっと目つきが悪くて……」
「いや、キャラクターの話はいい。昨日、被害者はその水筒を持っていたのか?」
「うん、持ってたよ。今あっついもんね。飲み物なかったら喉カラカラになっちゃうし。あ、でも……」
そこで唯佳が言葉を切った。細い人差し指をふっくらとした唇に当て、何かを思い出す表情になる。
「どうした? 何か気づいたことがあるのか?」ガマ警部が身を乗り出した。
「うん……。そういえば沙絢、昨日水筒忘れてたなって思って」
「何?」
「1コマ目の補習の途中だったかな。授業受けてた子が1人吐いちゃって。それで掃除するからって、隣の2組に移動したの。確かその時、沙絢が水筒忘れてた気がする」
木場はガマ警部と顔を見合わせた。とんでもなく重要な証言が飛び出してきたようだ。
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