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「えーと、的場貴弘君だね。児島さんの彼氏の。今日来てもらったのは……」
「彼氏?」
貴弘が眉を上げた。整った顔に侮蔑したような表情が浮かぶ。
「俺、あいつとはもう切れてるから、今は彼氏じゃないんだけど」
「あ、そうなの? 唯佳ちゃんは彼氏だって言ってたけど」
「あぁ……はっきり言ってなかったのかもな。別に言う必要もないし」
「別れたのはいつぐらいのこと?」
「夏休み入ってからだから、1週間前くらいかな。……って、警察ってそんな個人的なことまで聞くわけ?」貴弘が眉根を寄せた。
「これも捜査の一環だ。あんたが一時被害者と交際していたことは事実なんだろう?」ガマ警部が口を挟んだ。
「そうだけど……。ふうん、そうやって人のプライベートにずかずか踏み込んでくんのか。嫌な仕事だな、警察って」
貴弘が嘲笑するように鼻を鳴らした。木場はむっとして貴弘を見た。この高校生、少し生意気なんじゃないだろうか。ここは人生の先輩として一発喝を入れた方が――。
「木場、お前は黙ってろ」ガマ警部がすかさず言った。
「え、まだ何も言ってませんよ?」
「おおかた、『この生意気な若造に一発喝を入れてやろう』とでも考えていたんだろう?」
「え、何でわかるんですか!?」木場が目を丸くした。
「ここ数か月でお前の思考パターンが見えてきたからな。ここは俺に任せておけ」
ガマ警部はそう言うと、のっそりと貴弘の方に一歩近づいた。貴弘が警戒するように身を引く。
「おいお前、的場と言ったな。お前が警察をどう思うが知ったこっちゃないが、この不愉快な時間をさっさと終わらせたいのなら、協力した方が身のためだとは思わんか?」
貴弘がポケットに手を突っ込んだまま、挑発的な目でガマ警部を見返した。警部の鋭い眼光を前にしても物怖じする様子はない。だがもちろんガマ警部が引くはずもなく、一触即発の空気が辺りに漂った。
睨み合いがしばらく続いた後、最初に折れたのは貴弘の方だった。根負けしたようにため息をつく。
「……わかったよ。それで、何を聞きたいわけ?」
「まずは昨日から今日にかけての行動だ。特に昨日の午後のことを聞きたい」
「昨日の午後な。ちょっと待てよ、思い出すから……」
貴弘は片手をポケットから出して頭を掻いた。ガマ警部は表情1つ変えずに話の続きを待っている。
そんな2人の様子を、木場は恥じ入りながら見つめた。まただ。冷静に対処しようと決めた矢先、つい感情的になってしまった。いつもこうやって相手のペースに呑まれてしまう。ガマ警部のように淡々と物事を進められる日はいつになったら来るのだろう。
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