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木場の内心の反省など知る由もなく、貴弘はぽつぽつと語り始めた。
「ええと……昨日はそう、10時前くらいに学校に来たんだ。担任の面談があったから。俺、13時から補習だったんだけど、面談終わってから時間空くからさ。面談午後からにしてくれって担任に頼んだんだけど、他の奴の都合でそこしか調整つかないからって言われて」
「10時から面談があって、その後13時から補習を受けたと。面談が終わったのは何時頃だったの?」木場が気を取り直して尋ねた。
「30分くらいだって思ってたんだけど、進路とかクラスのこととかいろいろ聞かれてたら、1時間くらい経ってた気がする。……ったく、夏休みにわざわざ面談なんてしなくていいのにな」貴弘が面倒くさそうに頭を掻いた。
「終わったのは11時くらいってことだね。補習が始まるまではどうしてたの?」
「部室にいた。俺、野球部なんだけど、6月に引退したばっかでさ。部室に誰かいるかなって思って行ったんだけど、練習休みだったみたいで、誰もいなかったから適当に時間潰してた」
「では、その間は1人だったわけか?」ガマ警部が鋭く尋ねた。
「うん。え、何、俺疑われてるわけ?」貴弘が目を剥いた。
「ただの形式的な質問だ。それで? 午後からの補習はどこで受けたんだ?」
「どこでって……教室だよ。2組の」
「2組?」木場が飛びついた。
「うん。俺、最初1組の方に行ったんだよ。昨日まではずっと1組で受けてたから。そしたら2組に変更になったって張り紙がしてあって」
「午後からの補習は、最後まで2組でやってたの?」
「うん。俺は1コマしか受けてないけど、誰も移動してなかったし、ずっと2組でやってたんだと思う」
「じゃあ、1組の教室は午後からも使ってなかったわけだね。その日の補習は何時まであったの?」
「さぁ……たぶん15時までだった気がする。ちゃんと覚えてるわけじゃないけど」
「つまり、13時から15時の間も、誰でも1組には入れたというわけだな。もっとも、その間も水筒が1組にあったかはわからんが……」
「誰かが持っていった可能性もありますしね。的場君は見てない? 児島さんの水筒、1組に忘れてあったやつなんだけど」
「水筒? 知らねぇよ。俺、1組には行ってないからな」
「ふうむ……それで? 補習が終わった後はどうしたんだ?」ガマ警部が尋ねた。
「別に、用もないからすぐ帰ったよ」
「被害者には会わなかったのか?」
「会ってない。あいつらが補習受けてたの午前中だしな」
「では、今朝の行動は?」
「今朝は……10時前くらいに学校に着いた。でも警官が大量にいて、何か面倒くさそうだったし、帰ろうかなって思ってたら警官に捕まって、それでいろいろ聞かれた。沙絢のことも聞かれて、ちょっと前まで付き合ってたって答えたら急に慌て出して、そのまま進路指導室連れていかれた」
「じゃあ貴弘君も、そこで児島さんが亡くなったことを聞いたの?」木場が尋ねた。
「うん。唯佳はびっくりしてたみたいだけど、俺は別に何とも思わなかった」
「何とも? つい最近まで付き合っていた相手が死んだというのにか?」ガマ警部が非難するような視線を向けた。
「俺、あんま人に執着するタチじゃねぇんだ。人間関係なんて替えが聞くもんだって思ってるから、悲しいとか寂しいとかも感じねぇし」
「……随分と冷めた見方をするんだな。被害者との付き合いは長くなかったのか?」
「うーん、付き合ってたのは3か月くらいかな。あいつから告白してきて、顔がタイプだったから付き合いだしたけど、正直あんま上手くいってなかった」
「というと?」
「あいつ、すげぇ嫉妬するんだよ。俺がちょっと他の女子と喋ってたらすぐ怒り出して、勝手に携帯とか見るし。監視されてるみたいで気分悪くてさ。だから俺から別れた」
「児島さんは納得したの?」木場が尋ねた。
「いや、怒ってた。自分は別れるつもりないとか言って、しばらくLINEとか電話来てたけど全部無視してた。そしたらそのうち来なくなったけど」
「じゃあ、今はもう児島さんとは何の関わりもないってこと?」
「だからそう言ってるだろ。あいつとはもう関係ねぇんだよ。何でこんなことに付き合わされなきゃいけないんだよ」
貴弘が不快感を露わにした。一刻も早くここから解放されたがっているらしい。
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