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「そういえば、的場君は唯佳ちゃんとは仲がよかったの?」木場が思いついて尋ねた。
「唯佳? まぁ割と。あいつ、沙絢と違って裏表なかったから、一緒にいて楽だったし」
「ほう、被害者には裏表があったと?」ガマ警部が鋭く尋ねた。
「うん。俺も付き合うまでは、沙絢も唯佳みたいなふわふわしたタイプなのかなって思ってたけど、実際は全然違って。あんな嫉妬する性格とか知らなかったし、それに……何つうか、何でも自分の思い通りにならないと気が済まないみたいなとこがあった」
「相手をコントロールしたがってたってこと?」木場が口を挟んだ。
「そうそう。だから俺のことも好きにしたかったんだと思う。でも俺、そういうのマジで無理だから。あいつとは根本的に合わなかった」
「ふうん……。なんか、だんだん被害者の人となりが見えてきましたね」
「あぁ、見かけによらず、かなり狡猾な性格だったようだな。あの委員長の洞察も、あながち間違いではなかったということか」
ガマ警部はそう言って黙り込んだ。明らかになった被害者の人間性を前に、容疑者となりうる者を考えているのかもしれない。
「なぁ、もう行っていいか? 俺、知ってることは全部話したからさ」貴弘がしびれを切らしたように身体を揺すった。
「ん? あぁ、そうだな。今のところはこれで十分だ。もう帰っていいぞ」
「さっさと片づけてくれよな。俺、面倒なのマジで嫌いだから」
貴弘はそれだけ言うと、だるそうに肩を揉みながら教室を出て行った。
「まったく……最近の高校生はみんなあぁなのか? 淡白というか、無愛想というか……」ガマ警部が嘆かわしそうに言った。
「いやぁ、自分の時にもあそこまで達観した子はいなかったですねぇ。『人間関係は替えが聞く』なんて、高校生の台詞とは思えませんよ」
「それにしても、被害者の死にあれほど無関心だったのは奇妙だがな。奴の性格だといってしまえばそれまでなんだろうが……」
「え……まさか、ガマさんは的場君を疑ってるんですか?」
「被害者はあの小僧とは違い、粘着質な性格だったようだからな。的場は被害者とは切れたと言っていたが、被害者の側はそうは思っていなかったのかもしれん」
「別れ話がもつれて殺したってことですか?」
木場が信じられない思いで聞き返した。人気のない教室で、いかにもだるそうに首を回しながら、水筒に粉を入れる貴弘の姿を想像する。
「あくまで可能性の話だ。まぁ、あの小僧が殺人なんて面倒事を起こすとは思えんがな」
ガマ警部がため息をついた。容疑者を俊敏に嗅ぎ分けるガマ警部の嗅覚も、今回は発揮されずにいるようだ。
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