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「あ、待ってください! あの、何があったんですか?」
教師と一緒にいた1人の男子学生が尋ねた。中年の刑事は振り返ったが、その猛禽類のような鋭い眼光に射竦められて男子学生はびくりとした。
「実は殺人事件があったんです。この学校の生徒が殺されてしまって……」
追いついた若い方の刑事が親切そうに口を挟む。途端に場の空気が凍りついた。
「さ、殺人事件!?」
「うちの学校の生徒が殺されたって……それ、ヤバくない?」
生徒達が矢庭にざわつき始めた。教師達も顔面蒼白になっている。
「木場! 情報の取扱いには気をつけろと言っておいただろうが! なぜお前はそういつもいつも余計なことをする!」
中年の刑事の怒号が飛んだ。木場と呼ばれた刑事がひっと声を上げて縮こまる。
「す、すみませんガマさん……。知らないのも不安かと思って……」
「中途半端に情報を出せば余計に混乱を招くだけだ。それに噂が広まり、デマ情報が大量に寄せられて困るのは俺達だ。まったくお前は……刑事の基本だろうが!」
「す、すみません……」
木場は頭を抱えてその場に丸まった。ガマさんと呼ばれた刑事は盛大に舌打ちをすると、じろりと教師や生徒達の方を見やった。
「言ってしまったものは仕方がない。この学校で殺人事件があったことは事実だが、くれぐれも他言は無用だ。万が一、情報がSNSか何かで拡散することがあれば、お前らを一人残らず留置場で取り調べてやるからな」
生徒達はこくこくと頷いた。内心、今すぐSNSに投稿したくてうずうずしていたが、この恐ろしい刑事に威嚇されては逸る心も消し飛んでしまっていた。
中年の刑事は念を押すように今一度睨みをきかせると、今後こそ北側の校舎へと向かった。
「あ、ガマさん! 待ってくださいよ!」
もう1人の若い刑事が慌てて中年の刑事の後を追う。もはやお馴染みのようになったこの光景、木場がぽかをやらかし、ガマ警部がそれを叱る。このいびつなコンビによる捜査劇が、再び始まろうとしていた。
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