日常に忍び寄る影

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 そういうわけで、今回の事件は2人の3件目の事件に当たる。いつものことながら、現場に降り立つや否や、木場は興味深げにきょろきょろと辺りを見回した。 「いやー懐かしいですねー! 高校なんて何年ぶりだろ? でも、意外と自分が通ってた時と変わってないですね」 「お前が通っていたのはせいぜい7、8年前だろう。そう簡単に変わってたまるか」ガマ警部がふんと鼻を鳴らした。 「それもそうですね。ガマさんの頃は、校舎はまだ木造なんでしたっけ?」 「……木場、お前俺をいくつだと思ってる? 俺の時代には校舎はとっくにコンクリートに変わっていた」ガマ警部がむっつりと言った。 「あ、そうなんですか? でも最近の高校は綺麗ですね。自分も公立でしたけど、壁の塗装はあちこち剥げてたし、色ももっとくすんでましたよ」  木場が感心したように言った。現場となった薙高校は特に偏差値が高いわけではなく、入試の答案用紙に名前を書けば受かるレベルの公立高校だ。卒業後の進路は進学と就職が半々程度。進学の中でも半分は専門学校で、大学進学率は高くはない。そのためか、校内には受験に向けたせかせかとした雰囲気はなく、生徒達はのんびりと高校生活を謳歌していたらしい。 「思い出話はそれくらいにして、今は捜査に集中しろ。何しろ生徒が殺されたんだ。犯人が野放しになったままでは保護者も不安だろうからな」  ガマ警部が苦い顔をして言った。その声色にいつになく心痛が滲んでいるのを感じ、木場はおや、という顔をした。 「そう言えば、ガマさんのところにも娘さんがいるんでしたっけ?」 「……まぁな。だからというわけじゃないが、この事件は他人事のようには思えん」  ガマ警部が感情を抑えた声で言った。鬼の警部にしては珍しいことだ。 「そうですね! 未来ある若者の命を奪うなんて絶対に許せません! 一刻も早く犯人を捕まえましょう!」  木場が張り切って言ったが、途端に警部は顔をしかめた。しまった、こいつの気を昂らせるようなことを言うんじゃなかった。捜査に私情を挟むのは禁物だといつも言っているのに、俺としたことが――。  だが時すでに遅し。木場は鼻息を荒くして猛然と廊下を歩いていった。  それを見てガマ警部はため息をついた。やれやれ、初っ端からこの調子では先が思いやられる。せいぜい奴の手綱を緩めないようにするとしよう。ガマ警部はそう決意すると、早くも疲れた顔で木場の後を追った。
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