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奪われた青春
やがて2人は現場である3年1組の前に到着した。付近には黄色いテープが張られ、鑑識がせわしなく行き交っては、写真を撮ったり指紋を採取したりしている。
木場は辺りを見回し、いつもいるはずの人物の姿を探した。
その人物はすぐに見つかった。トレードマークの黒縁眼鏡をかけ、白いワイシャツの上に、赤地に白の水玉のネクタイを巻きつけている。
サラリーマンにしては派手なネクタイの色と柄を見て木場は頭を捻った。あのネクタイの趣味はどうなんだろう。お洒落な人なら様になりそうだけど、あの人がやると漫才師みたいに見えるな。
そんなどうでもいいことを木場が考えていると、そのネクタイの人物がこちらに気づき、ぴんと背筋を伸ばして近づいてきた。
「警部殿! ご苦労様であります! それに木場巡査殿も!」ネクタイの男が敬礼しながら言った。
「渕川、『ご苦労』は部下に使う言葉だ。お前はいつから俺の上司になったんだ?」ガマ警部が冷ややかに言った。
「め……滅相もない! ほんの言葉の綾であります!」
渕川と呼ばれた刑事が慌てふためいた。彼の名は渕川勤。刑事になって10年になる木場の先輩だが、うだつが上がらず、未だに木場と同じ巡査の階級に留まっている。過去の事件では有力な証拠を見つけたこともあり、決して無能ではないはずなのだが、その癖のある言動のためか評価がされにくいようだ。
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